SNSで当たり前のように使われている「hashtag(ハッシュタグ)」。この「#」という記号は、インターネットの普及以前から存在していましたが、その呼び名や用途は時代とともに劇的に変化してきました。
実は、この「#」という記号、アメリカ英語ではかつて「pound sign」や「number sign」と呼ばれるのが一般的でした。電話の自動音声などで「シャープを押してください」と言われる際、英語圏では「Please press the pound key」とアナウンスされることが多かったのです。一方、イギリス英語では料理の「ハッシュドビーフ」などと同じく「切り刻む」という意味合いから、網目状のこの記号を「hash」と呼んでいました。
現在の「hashtag」という言葉は、この記号の「hash」と、分類用の札を意味する「tag」を組み合わせた造語です。2007年、あるTwitter(現X)ユーザーが「話題をまとめるために#を使おう」と提案したのがきっかけで世界中に広まりました。それまで単なる記号だったものが、情報を繋ぐ強力なツールへと進化した瞬間です。
さらに歴史を遡ると、この記号のルーツは古代ローマの重量単位「libra(リブラ)」にあるという説が有力です。「lb」と書かれていた筆記体が、素早く書かれるうちに崩れて横棒が入り、現在の「#」の形になったと言われています。つまり、「重さ」を表す記号が、現代では情報の「重み」や「トレンド」を表す記号へと変貌を遂げたわけです。
現代の英会話では、面白い使い方も生まれています。話し言葉として、文末に皮肉や強調を込めて「Hashtag」と口に出して言うスラングです。例えば、失敗した後に「Hashtag fail(ハッシュタグ、失敗だわ)」と自虐的に言ったり、自慢話の後に「Hashtag blessed(ハッシュタグ、恵まれてる)」と付け加えたりします。書き言葉の文化が話し言葉に逆輸入されたユニークな例です。
表記上のマナーとして知っておきたいのが「CamelCase(キャメルケース)」です。複数の単語をタグにする際、「#SuperBowl」のように各単語の頭文字を大文字にする書き方を指します。らくだ(Camel)のコブのように見えることからこう呼ばれますが、これは読みやすさだけでなく、音声読み上げソフトが単語を正しく区切って認識できるようにするための、アクセシビリティ上の配慮でもあります。
このように、「#」は単なる記号から、世界中の声を繋げる社会的なアイコンへと成長しました。その背景には、電話機や手書き文字の歴史、そしてユーザーのアイデアが詰まっているのです。
