英語で「音楽」を指す際、最も一般的な単語は「music」ですが、その語源はギリシャ神話にまで遡り、言葉の使い分けや慣用句には西洋の芸術観が色濃く反映されています。
「music」という言葉の語源は、ギリシャ神話に登場する文芸の女神たち「Muses(ムーサ/ミューズ)」に由来します。彼女たちが司る技芸を指す「mousikē」という言葉が、ラテン語を経て英語の「music」になりました。ちなみに、博物館や美術館を意味する「museum」も同じ語源を持っており、本来は「ミューズたちが集う場所」という意味でした。音楽と学術・芸術が、古くから同じ源流として捉えられていたことが分かります。
日本語では歌も楽器演奏も一括りに「音楽」と呼ぶことがありますが、英語では「music」と「song」を明確に使い分けます。「song」はあくまで「歌(歌詞のある曲)」を指すため、歌詞のないクラシック曲などを「a nice song」と呼ぶと違和感を持たれることがあります。また、文法的には「music」は不可算名詞(数えられない名詞)であるため、「a music」と言ったり複数形にしたりすることはできません。1曲、2曲と数えたい場合は「a piece of music」といった表現を使います。
音楽にまつわる慣用句には、非常にユニークなものが多く存在します。例えば「face the music」という表現があります。直訳すると「音楽に立ち向かう」ですが、実際には「(自分の過ちの結果として)報いを受ける、現実を潔く受け入れる」という意味で使われます。その由来には諸説ありますが、軍隊で不名誉除隊となる際に太鼓の音(音楽)の中で隊列を去らなければならなかった習慣や、舞台俳優が緊張の中でオーケストラの演奏(音楽)に向き合ってステージに立つ姿から来ていると言われています。
また、嬉しい知らせを聞いた時に使う「music to my ears」という表現も一般的です。「私の耳にとっての音楽だ」、つまり「それは素晴らしいニュースだ」「聞いていて心地よい言葉だ」という喜びを伝える粋な言い回しです。
さらに、音階の呼び方にも文化の違いがあります。日本では「ドレミ」が一般的ですが、英語圏では「C, D, E, F, G, A, B」とアルファベットで呼ぶのが基本です。「ドレミ」はイタリア語などのラテン系言語に由来するため、英語の音楽理論やレッスンの場ではアルファベットによる表記が主流となっています。
このように、英語の「音楽」という言葉は、神話の世界から日常生活の教訓まで、幅広い背景を持っています。何気なく耳にするメロディのように、言葉の裏側にある物語を知ることで、英語という言語の響きがより豊かに感じられるようになるのではないでしょうか。
