英語で「神話」を指す単語は「mythology」や「myth」ですが、これらは単なる古い物語を指すだけでなく、現代の英語の語彙や私たちの日常生活の中に深く息づいています。
まず、単語の使い分けに注目しましょう。「mythology」はギリシャ神話や北欧神話といった体系的な「神話体系」を指すのに対し、「myth」は個別の「神話的な物語」を指します。また、現代口語では「myth」という言葉は「(根拠のない)作り話」や「俗説」という意味で頻繁に使われます。「It’s a myth that…(〜というのは迷信だ)」といった具合に、科学的な根拠に欠ける事柄を否定する際によく登場する表現です。
身近なところに神話の名残があるのが、一週間の「曜日」の名前です。実は、英語の曜日の多くは北欧神話の神々に由来しています。例えば、火曜日の「Tuesday」は軍神テュール(Tiw)、水曜日の「Wednesday」は主神オーディン(Woden)、木曜日の「Thursday」は雷神トール(Thor)、そして金曜日の「Friday」は愛の女神フリッグ(Frigg)から来ています。何気なく使っている言葉の中に、古代の神々が隠れているのは非常にロマンチックですね。
また、現代英語にはギリシャ・ローマ神話から生まれた比喩表現や英単語が数多く存在します。例えば、誰にでもある致命的な弱点を「Achilles’ heel(アキレスの腱)」と呼びますが、これは英雄アキレスが不死身の体を得るために川に浸された際、かかとだけが水に浸からず弱点になったという神話に基づいています。他にも、思いがけない災いをもたらす「Pandora’s box(パンドラの箱)」や、触れるものすべてを金に変えてしまうほど商才があることを示す「Midas touch(マイダスの手)」など、神話を知らなければ理解できない比喩が日常会話に溶け込んでいます。
さらに、私たちが普段使っている名詞の中にも神話由来のものが溢れています。「Panic(パニック)」は、森の神パンが突然現れて人々を恐怖させたことに由来し、「Cereal(シリアル)」は農業の女神ケレス(Ceres)の名から取られています。また、山びこを意味する「Echo(エコー)」は、呪いによって自分からは話せず、人の言葉を繰り返すことしかできなくなったニンフのエコーの悲劇的な物語が語源です。
文法的な側面では、ギリシャ神話(Greek mythology)のように特定の体系を指す場合は、固有名詞の一部として大文字で書き始め、定冠詞を伴わないのが一般的です。
このように、英語における「神話」は、過去の遺産ではなく、現代の言葉を形作る重要なパズルの一片のような存在です。単語のルーツを辿ることで、数千年前の物語が今も私たちの口から語られていることに気づかされるのではないでしょうか。
