英語で「記憶」を意味する単語は「memory」が基本ですが、「覚える」「思い出す」という動作を表す動詞の使い分けや、記憶にまつわる語源を探ると、英語圏の人々が「心」と「脳」をどう結びつけて考えてきたかが見えてきます。
まず、日本人学習者が迷いやすいのが「remember」と「memorize」の違いです。「memorize」は「努力して暗記する」という能動的な行為(試験勉強など)を指します。一方、「remember」は「覚えている」という状態や、「ふと思い出す」という自然な心の動きを表します。つまり、「電話番号を暗記する(memorize)」ことと、「電話番号を覚えている(remember)」ことは明確に区別されています。
非常に興味深いのが「暗記する」を意味する慣用句「learn by heart」です。なぜ「脳(brain)」ではなく「心(heart)」なのでしょうか? 実は古代ギリシャやローマの時代、記憶や知性は心臓に宿ると信じられていました。この考え方は「record(記録する)」という単語の語源にも残っています。「record」は「re(再び)」とラテン語の「cor(心)」が組み合わさった言葉で、もともとは「再び心に刻む」という意味でした。記憶と心臓が密接に関わっていた歴史の名残です。
記憶に関する動物の例えもユニークです。記憶力が非常に良いことを「have a memory like an elephant」や「An elephant never forgets(象は決して忘れない)」と表現します。象は群れの仲間や水源の場所を何十年も覚えていると言われることに由来します。対照的に、記憶力が悪いことを「have a memory like a sieve(ザルのような記憶力)」や、俗説ですが「goldfish memory(金魚の記憶力)」と表現することもあります。
日常会話でよく使われる表現に「ring a bell」があります。「That name rings a bell(その名前、聞き覚えがあるな)」のように使いますが、これは何かがきっかけで記憶のベルが鳴り、呼び覚まされる感覚を見事に表しています。また、昔話に花を咲かせることを「take a trip down memory lane(記憶の小道を散歩する)」と言うのも、非常に詩的で美しい表現です。
文法的な注意点として、「remind」という動詞があります。これは「(人が)誰かに思い出させる」という意味です。日本語の「思い出す」とは主語が異なるため、「You remind me of my father(あなたは私の父を思い出させる=あなたを見ると父を思い出す)」という構造になるのが特徴です。
このように、英語の「記憶」にまつわる表現は、単なる脳の機能としてだけでなく、心臓(感情)や音、動物の特性など、五感や情景と結びついて語られています。単語の背景にある「心」を感じることで、より深く記憶に残る英語学習ができるかもしれません。
