英語で「色」や「色彩」を表現する最も一般的な単語は「color」ですが、英語圏では色が単なる視覚的な情報にとどまらず、人間の複雑な感情や歴史的背景を表すための豊かな比喩として日常的に使われています。
まず、スペルに関する有名な違いとして、アメリカ英語では「color」と綴りますが、イギリス英語では「colour」と綴ります。これは、ラテン語の語源をそのまま採用したアメリカに対し、古いフランス語の綴りを経由して定着したイギリスの歴史的背景によるものです。
英語の色彩表現で特に面白いのは、色と感情の結びつきです。例えば「blue(青)」。日本語でも「ブルーな気分」と言いますが、英語でも「feel blue」は憂鬱な気分を表します。また、雲のない青空から突然雷が落ちる様子から転じて、「out of the blue」で「予期せずに、突然に」という意味の便利な慣用句として使われます。
「green(緑)」は、自然を象徴する一方で、人間のネガティブな感情と結びつくのが英語特有の文化です。「green with envy」は「ひどく嫉妬して」という意味になります。これはシェイクスピアの戯曲『オセロ』の中で、嫉妬が「緑色の目をした怪物(green-eyed monster)」と表現されたことに由来すると言われています。その一方で、「green thumb(緑の親指)」と言えば、植物を育てるのが上手な人、つまり「園芸の才能」を褒める表現へとガラリと変わります。
また、社会的な歴史が色に反映されている例として「red tape(赤いテープ)」があります。これは「お役所仕事」や「無駄な事務手続き」を批判する言葉です。16世紀から17世紀にかけて、イギリスなどの政府の重要書類が赤い紐(テープ)で縛られて保管されていたことから、煩雑な官僚主義を揶揄する言葉として定着しました。
人間関係を円滑にするための色もあります。「white lie(白い嘘)」は、相手を傷つけないためにつく「罪のない嘘」や「優しい嘘」のことです。白が持つ純潔や無害というイメージがうまく活かされています。
このように、英語における「色彩」は、歴史の足跡や人々の心の機微を鮮やかに描き出しています。直訳では意味が通じないカラー・イディオム(色を使った慣用句)の背景を知ることで、英語の表現力はもっとカラフルで豊かなものになるはずです。
