英語の授業で多くの人がつまずく「仮定法」。英語では「subjunctive mood」や、条件文を指す「conditionals」と呼ばれます。単なる面倒な文法ルールと思われがちですが、実は英語圏の人々の「想像力」や「人間関係の距離感」を色濃く反映した、非常に表現豊かなシステムなのです。
仮定法の最大の特徴は、「現在の妄想」を語るのに「過去形」を使う点です(仮定法過去)。なぜ現在のことなのに過去形を使うのでしょうか?それは、時間的な過去ではなく、現実からの「心理的な距離」を表しているからです。「現実にはあり得ないけれど…」という現実離れした感覚を、時間を一つ過去へズラすことで表現しているのです。
代表的なフレーズに「If I were you(もし私があなたなら)」があります。「I」の過去のbe動詞は本来「was」ですが、ここではあえて「were」が使われます。これは、古い英語に存在した特殊な動詞変化のなごりです。現代ではカジュアルに「was」を使うネイティブも増えていますが、やはり「自分があなたになることは絶対にあり得ない」という非現実感を強調するために、今でも伝統的な「were」が好んで使われます。
また、仮定法は日常的な「丁寧語」のベースにもなっています。人に何かを頼む時、「Can you ~?」よりも「Could you ~?」や「Would you ~?」の方が丁寧だと習いますよね。これも実は仮定法の応用です。「(もし可能であれば)していただけますか?」と、過去形を使って直接的な要求からあえて「距離」を置くことで、相手に断る余地を与える上品な響きを生み出しているのです。
さらに、祈りや強い願望を表す際にも仮定法は隠れています。「God bless you(神のご加護を)」という定番のフレーズは、「God blesses you」と三人称単数の「s」がつきません。これも「神が祝福しますように」という、単なる事実の描写を超えた願いを込めた仮定法(動詞の原形を使う形)の名残です。
このように、英語における仮定法は、人々の「叶わぬ願い」や「相手への気遣い」を形にした温かいシステムです。ただの暗記ルールではなく、言葉に込められた心理的距離の表現だと知ることで、英語という言語の奥深さがより一層感じられるのではないでしょうか。
