英語で「そこ」を意味する単語といえば「there」ですが、実は場所を指し示す以外にも、豊かな表現を持った非常に奥深い単語です。
私たちが学校で最初に習う「There is ~(~がある)」という構文。実はこの「there」には「そこ」という意味はありません。文法用語では「予備のthere(dummy subject)」と呼ばれ、「これから新しい情報を話しますよ」という聞き手への合図(スポットライト)の役割を果たしています。例えば「A cat is on the desk.」よりも「There is a cat on the desk.」の方が、突如として話題の対象(猫)が現れたようなニュアンスが生まれ、物語の導入や相手に新しい情報を提示する際にぴったりなのです。
また、「there」を使った慣用句や決まり文句には、日常会話で欠かせないものがたくさんあります。例えば、落ち込んでいる人を慰めたり、泣いている子供をあやしたりする時に使う「There, there.」。日本語の「よしよし」「いい子だから」に相当する、とても優しく温かい響きを持つ表現です。
困難な状況にいる友人を励ます時は「Hang in there!」と言います。直訳すると「そこにぶら下がって!」ですが、「なんとか持ちこたえて!」「頑張って!」という意味で使われます。一方で、「Been there, done that.」というユニークなフレーズもあります。これは「そこへは行ったし、それはもうやった」から転じて、「それはもう経験済みだよ」「今さら新しくもないよ」という、少し達観した気持ちやウンザリした態度を表す便利な表現です。
さらに、英語圏の家族旅行で必ずと言っていいほど後部座席の子供たちが口にするのが「Are we there yet?(まだ着かないの?)」というフレーズです。映画やドラマでもお決まりのジョークとして頻繁に登場し、この「there」は目的地であると同時に、長旅における親の忍耐の限界地点を示す言葉でもあります。
このように、「there」は単なる空間的な「そこ」という概念を越えて、新しい話題を切り出したり、相手への共感や励ましを伝えたりと、コミュニケーションの潤滑油として機能しています。見慣れた簡単な単語ほど、深く知ると面白い発見があるのが英語の魅力ですね。
