英語を学んでいて最初に出会う文法のひとつが、名詞の複数形をつくる「-s」ですよね。「apple」→「apples」、「book」→「books」。とても基本的なルールですが、「どうして複数を表すのに -s をつけるの?」と考えてみると、不思議に思いませんか。
実は、英語の祖先であるゲルマン語派の言語には、名詞を区別するために複雑な語尾変化がありました。古英語の時代には「-as」「-an」「-en」など、複数の形が混在していたんです。たとえば「stone」は古英語では「stanas」となり、「child」は「cildru」のように不規則な形をとっていました。
ところが、中世にかけて英語は大きな音変化と文法の簡略化を経験します。屈折語尾の多くが失われていき、その中で「-s」だけが広く残りました。この「-s」は北部方言で特に使われていた形で、やがて英語全体に広まっていったわけです。
もちろん、例外も生き残っています。「children」「men」「geese」などは古英語からの不規則形を今も受け継いでいますし、「oxen」のように昔の「-en」型の名残もあります。こうした単語はむしろ「言語の化石」として残っているんですね。
面白いことに、複数を「-s」で表す仕組みは英語だけでなく、フランス語やスペイン語などラテン語系の言語にもあります。英語がノルマン征服後にフランス語の影響を強く受けたことも、「-s」が主流化する後押しになったと考えられています。
つまり「apples」の「-s」は、単なるルールではなく、英語が歴史の中で形を整理してきた結果の象徴なんです。毎回つけるたびに、ちょっとした言語の進化の痕跡を見ていると思うと、少し楽しく感じられるかもしれませんね。