日本語では「肉」とひとことで言いますが、英語では肉の種類ごとに呼び方が違います。しかも、「動物名」と「食材としての肉の名前」が別になっていることも多く、これが英語学習者にとってはちょっとした混乱ポイントでもあります。
まずわかりやすい例から。「chicken」は鶏そのものも、食材としての鶏肉も同じ単語で表せます。ところが、牛になると違います。動物は「cow」ですが、食材は「beef」。豚も同じで、動物は「pig」、肉は「pork」。羊は「sheep」ですが、肉は「mutton」や「lamb」と呼ばれます。どうしてわざわざ言い分けているのでしょうか?
これは歴史が関わっています。11世紀、ノルマン人がイングランドを支配したとき、支配層はフランス語を使い、庶民は英語を話していました。庶民は家畜を育てる側なので「cow」「pig」と呼び、支配層は料理として食べる立場なので、フランス語由来の「beef」「pork」を使ったのです。その名残が現代英語に残り、動物と肉の呼び名が分かれているんですね。
もちろん、すべての肉に別名があるわけではありません。「turkey(七面鳥)」「duck(アヒル)」などは、動物と肉の名前が同じです。また、肉の部位を表す単語も多彩です。「rib(あばら肉)」「sirloin(サーロイン)」「thigh(もも肉)」など、料理やレストランのメニューでよく見かけます。
おもしろいのは、英語で「meat」というと基本的に「肉類全般」を指すことです。ただし日常会話では、魚は「meat」には含めず、「fish」や「seafood」と区別して扱います。一方、日本語ではもっと広い意味で使われ、「魚肉」や「果肉」といった表現もありますよね。
つまり、英語の肉の呼び方は、歴史的な背景や食文化が色濃く反映されています。牛が「cow」から「beef」に変わる、その背後には中世の社会の姿が隠れていると思うと、普段の食事も少し違って見えるかもしれません。