英語で「食」を語る際、単に「food」と呼ぶだけでなく、その背景には歴史的な階級社会や他文化との交流が深く刻まれています。英語のメニューや食にまつわる表現を覗いてみると、単なる栄養摂取以上の物語が見えてきます。
最も有名な雑学の一つに、生きている動物と、その「肉」を指す言葉が全く別物であるという点があります。例えば、牛は「cow」、豚は「pig」ですが、料理として食卓に並ぶと「beef」や「pork」に変わります。これは11世紀のノルマン・コンクエスト(フランス系貴族による英国征服)に由来します。農民として動物を育てていた英語話者が「cow」と呼び、それを贅沢な料理として食べていたフランス語系の貴族が「boeuf(ビーフ)」と呼んだことから、一つの言語の中に二つの言葉が共存するようになりました。
また、イギリスの象徴とも言える「Afternoon Tea(アフタヌーンティー)」にも面白い歴史があります。実はこれ、かつては貴族の「空腹しのぎ」から始まった文化でした。19世紀のイギリスでは夕食の時間が非常に遅かったため、午後の空腹に耐えかねたベッドフォード公爵夫人がお茶と軽食を楽しんだのが始まりとされています。ちなみに、労働者階級が仕事終わりにしっかりとした食事と共に楽しむお茶は「High tea」と呼ばれ、優雅なイメージのあるアフタヌーンティーとは区別されています。
食にまつわる慣用句も、英語には非常に豊富です。例えば「bring home the bacon」という表現があります。直訳すれば「ベーコンを家に持ち帰る」ですが、実際には「家族を養うための生活費を稼ぐ」という意味で使われます。かつて、ご褒美としての豚肉が豊かさの象徴だった時代の名残です。また、簡単なことを「a piece of cake」と言うのは、かつてのパーティーでケーキが勝者に与えられる簡単なゲームの景品だったからという説が有力です。
文法的な側面で見ると、意外なのが「food」が不可算名詞(数えられない名詞)として扱われることが多い点です。これは、特定の「一皿」を指すのではなく、生命を維持するための「糧」という抽象的な概念として認識されているためだと考えられます。ただし、複数の種類の料理がある場合には「foods」と複数形になることもあり、文脈による使い分けが重要です。
このように、英語における「食」の言葉は、かつての征服の歴史や人々の生活習慣、そして「生きるための糧」としての重みが反映されています。何気なく使っている単語のルーツを知ることで、レストランのメニューを見る視点も少し変わるかもしれません。
