英語で「主語」は「subject」と呼ばれます。文法用語としておなじみですが、その語源や、なぜ英語では主語を省略できないのかという理由を探ると、英語圏の論理的な思考や文化的な背景が見えてきます。
「subject」という言葉の語源は、ラテン語の「sub(下に)」と「jacere(投げる)」が組み合わさったものです。もともとは「(王や支配者の)下に投げられたもの」、つまり「臣民」や「家来」を意味していました。そこから転じて、議論の「主題」や、文の「主語」を指すようになりました。文の中で動詞を支配し、中心的な役割を果たす「あるべき場所に置かれた土台」というイメージです。
日本語と英語の最大の違いは、主語の必要性です。日本語は「主語がなくても伝わる」言語ですが、英語は「主語がなければ成立しない」言語です。例えば、雨が降っているとき、日本語では単に「降っている」と言えば通じますが、英語では「It is raining.」と必ず「It」を置きます。この「It」には具体的な意味はありませんが、英語の構造上「誰が(何が)その動作をしているのか」を明確にする必要があるため、場所を埋めるための「形式的な主語」が必要とされます。
また、英語の主語で最も特徴的なのが、一人称単数の「I(私)」を必ず大文字で書くというルールです。これには諸説ありますが、かつての写本時代に小文字の「i」だけでは目立たず、読み間違いを防ぐために大きく書かれるようになったという実用的な理由が有力です。一方で、個人の存在を明確にし、自己の責任や意志を強調する西洋文化の「個の確立」が反映されているという見方もあります。
日常会話で使われるユニークな表現に「Change the subject」があります。「主語を変える」という直訳から転じて、「話をそらす」「話題を変える」という意味で使われます。気まずい質問をされたときに、「Let’s change the subject.(別の話をしよう)」と言うのは、ドラマなどでもよく耳にする定番のフレーズです。
文法的な側面では、主語は動詞の形を決定づける強力な権限を持っています。有名な「三単現のs」も、主語が「三人称・単数・現在」であるときだけに発動するルールです。主語はまさに、文というオーケストラの指揮者のような存在と言えますね。
このように、英語における「主語」は、単なる文のパーツではなく、物事を論理的に、かつ主体的に捉えようとする英語の設計図そのものです。なぜ主語が必要なのか、その背景にある「個」や「論理」を意識することで、英語の文章構造がよりクリアに見えてくるのではないでしょうか。
