英語で人を呼ぶ際に添える「Mr.」や「Ms.」などの敬称。日本語の「~さん」に近い役割を果たしますが、その成り立ちや時代の変化に伴う使い分けには、英語圏の社会構造や価値観が色濃く反映されています。
最も一般的な男性への敬称「Mr.(ミスター)」と、女性への「Mrs.(ミセス)」「Miss(ミス)」。これらはもともと、男女ともに「Master(主人)」や「Mistress(主婦・女主人)」という言葉が語源でした。かつては社会的な階級を示す言葉でしたが、時代とともに広く一般的に使われる敬称へと変化していきました。
女性の敬称については、20世紀後半から大きな変化がありました。かつては既婚か未婚かで「Mrs.」と「Miss」を厳格に使い分けていましたが、男性の「Mr.」が結婚の有無を問わないのに対し、女性だけ区別するのは不平等だという考えが広まりました。そこで現在では、結婚歴に関わらず使える「Ms.(ミズ)」がビジネスや公的な場での標準となっています。さらに最近では、性別を特定しないジェンダーニュートラルな敬称として「Mx.(ミックス)」という表現も辞書に採用されるなど、多様性を尊重する動きが加速しています。
また、職業に基づいた敬称も英語圏では非常に重要視されます。代表的なのが「Dr.(ドクター)」です。これは医師だけでなく、博士号を持つ人全般に使われます。大学の教授であれば「Prof.(プロフェッサー)」、キリスト教の聖職者であれば「Rev.(レバレント)」など、相手の専門性や社会的役割に対する敬意を敬称に込める文化があります。
文法的な面白い特徴として、ピリオドの有無があります。アメリカ英語では省略を示すために「Mr.」や「Dr.」と末尾にピリオドを打ちますが、イギリス英語では「Mr」や「Dr」とピリオドを省略するのが一般的です。これは「最初の文字と最後の文字(Mとr)が単語と同じであればピリオドは不要」というイギリス流のルールに基づいています。
慣用句としても敬称は使われます。例えば、理想の結婚相手を指す「Mr. Right」や、何でも知っていると鼻にかける人を皮肉る「Mr. Know-it-all(知ったかぶり)」など、特定の人物像を敬称を使って表現するユニークな言い回しが数多く存在します。
このように、敬称は単なる呼び名ではなく、歴史的な階級意識から現代のジェンダー平等、さらには地域による表記のこだわりまで、多くの情報が詰まった記号です。相手に合わせた適切な敬称を選ぶことは、英語におけるコミュニケーションの第一歩と言えるでしょう。
