英文を読んでいるとしょっちゅう目にする「,(コンマ)」。日本語の読点(、)と同じ感覚で使ってしまいがちですが、英語のコンマには厳格なルールや、時には裁判の判決さえ左右するほどの強力な役割があります。
まず、英語学習者の間で最も有名な雑学といえば「Oxford Comma(オックスフォード・コンマ)」でしょう。これは、A, B, and Cと3つ以上の要素を並べる際、最後の「and」の直前に置くコンマのことです。一見不要に思えますが、これがないと意味が激変することがあります。例えば、「I love my parents, Lady Gaga, and Humpty Dumpty.(私は両親とレディー・ガガとハンプティ・ダンプティを愛している)」という文。もし最後のコンマがないと、「私の両親であるレディー・ガガとハンプティ・ダンプティを愛している」という、両親が誰であるかを説明する意味に解釈される可能性があるのです。
このコンマ一つが、多額の賠償金を生んだ実話もあります。2017年、アメリカのメイン州で「残業代の支払い義務」を巡る裁判が起きました。法律の条文にコンマがなかったために、特定の作業が「免除対象」なのか「付随する業務」なのかが曖昧になり、結果として会社側は約500万ドル(当時のレートで約5億円以上)もの支払いを命じられました。まさに「Million-dollar comma(百万ドルのコンマ)」と呼ばれる、歴史的な句読点の事件です。
「comma」という言葉の語源を遡ると、ギリシャ語で「切り取られた断片」を意味する「komma」に行き着きます。もともとは記号そのものではなく、文章の中の短い「節」や「フレーズ」自体を指す言葉でした。それが時代の変化とともに、その節を区切るための「記号」を指すように変化していきました。
また、英語には「Comma Splice(コンマつなぎ)」という、初心者が陥りやすい文法ミスがあります。これは「I like coffee, I like tea.」のように、独立した2つの文章をコンマだけでつないでしまうことです。英語においてコンマは「接着剤」としては力が弱いため、本来は接続詞(andなど)を使うか、ピリオドやセミコロン(;)で分ける必要があります。日本語の感覚でつなげてしまうと、不自然な印象を与えてしまうのですね。
このように、英語のコンマは単なる「息継ぎの合図」ではなく、情報の整理や法的解釈を支える重要なパーツです。小さな点一つですが、その背景を知ることで、英文を読む際や書く際の意識が少し変わるのではないでしょうか。
