英語を勉強するとき、多くの人がつまずくのが「a」や「the」といった冠詞です。日本語には存在しない仕組みなので、「どうしてこんな小さな言葉をいちいち使うの?」と疑問に思ったことがあるかもしれません。実は冠詞には、英語という言語の特徴がよく表れています。
冠詞は、名詞が「はじめて登場するもの」か「すでに話に出てきたもの」かを区別する役割を持っています。たとえば「I saw a cat. The cat was black.」という文では、最初の「a cat」は「どんな猫かはまだ知らない、一匹の猫」という意味になります。そして次に「the cat」と言うと、「さっき話題にしたあの猫」と相手にわかるようになります。
では、なぜ英語には冠詞が必要だったのでしょうか。一つの理由は、英語が「語順」をとても大事にする言語だからです。日本語では「私はリンゴを食べる」と言っても「リンゴを私は食べる」と言っても意味は変わりません。しかし英語では「I eat an apple」と「An apple eats me」では意味がまったく逆になります。語順に頼る英語では、名詞にちょっとした印をつけることで、話の流れをスムーズにしているわけです。
歴史的に見ると、古英語には今のような冠詞はありませんでした。代わりに、名詞の形を変えて「これは新しいもの」「これは特定のもの」と区別していました。しかし、名詞の語尾変化が次第に失われるにつれて、代わりに短い言葉で区別する必要が出てきました。その結果、「a」や「the」が大きな役割を担うようになりました。
また、冠詞は単なる文法の道具以上の働きも持っています。たとえば「the sun」と言えば「この世界にただ一つの太陽」という特別な意味合いになりますし、「a teacher」と言えば「一人の教師」という一般的な意味になります。ちょっとした冠詞の違いで、話す人の視点やニュアンスまで変わるわけですね。
冠詞は英語学習者にとってやっかいですが、言語が工夫を重ねてきた結果でもあります。最初は面倒に見えても、「a」と「the」があるおかげで、英語は少ない言葉で多くの情報を伝えられるようになっていると考えると、面白いですよね。