英語を学んでいると、「r」の音の扱いが地域によって驚くほど違うことに気づきます。たとえばアメリカ英語では「car」の語尾の「r」をはっきりと発音しますが、イギリスの多くの地域では発音せず「カー」に近い響きになります。同じ単語なのにここまで差が出るのはなぜでしょうか。
まず、「r」を語末で発音するかしないかという違いは、「r音性」と呼ばれます。アメリカ英語やアイルランド英語、スコットランド英語は「r音性」を持つ方言で、語尾でも「r」を強調します。一方、ロンドンを中心とする南部イングランドでは18世紀ごろから語尾の「r」が弱まり、やがて発音されなくなりました。これが「非r音性」です。
なぜイギリスで「r」が消えていったのかには諸説ありますが、上流階級の発音の変化が広まったことが大きいと考えられています。18世紀のイギリス社会では、洗練された話し方がステータスを示す手段となり、語尾の「r」を弱めて発音するのが「上品」とされるようになりました。この発音が教育や演劇を通じて広まり、現在の標準的なイギリス英語の特徴になったわけです。
ただ、植民地に渡った人々が話していた英語は、まだ「r音性」を保っていました。アメリカやカナダ、オーストラリアの一部の地域に「r」が残ったのはそのためです。つまり、アメリカ英語の発音は必ずしも「新しい形」ではなく、むしろ昔のイギリス英語に近いと言えるわけですね。
また、同じイギリス国内でも、スコットランドや西部の一部地域では「r」が今も力強く発音されます。イギリス英語=非r音性というイメージは正確ではなく、地域差も非常に大きいです。
このような違いは単なる発音の癖ではなく、言語が社会や歴史と深く結びついている証拠でもあります。「car」を「カー」と言う人も「カーr」と言う人も、それぞれの歴史的背景を反映した話し方をしているというわけですね。学習者にとっては戸惑う部分ですが、英語の面白さのひとつでもありますね。