ビジネスや日常の合意形成に欠かせない「交渉」。英語では一般的に「negotiation(ネゴシエーション)」と言いますが、その語源や使われる表現を掘り下げると、欧米の仕事観や人間関係の築き方が見えてきます。
まず「negotiation」の語源ですが、これはラテン語の「negotium」に由来しています。「neg(否定)」と「otium(余暇・休息)」が組み合わさった言葉で、直訳すると「余暇ではない状態」、つまり「仕事」そのものを指していました。かつての人々にとって、交渉とはのんびり休んでいる暇のない、真剣な「商売の場」であったことが分かります。
日本語では「交渉」と一括りにしがちですが、英語ではその性質によって言葉が使い分けられます。対等な立場で条件を詰め合う公的な場では「negotiation」が使われますが、市場での値切り交渉や、より泥臭い条件の叩き合いは「bargaining(バーゲニング)」と呼ばれます。バーゲンセールの「バーゲン」と同じ語源で、より「得をしようとする駆け引き」のニュアンスが強くなります。
交渉にまつわるユニークな慣用句もたくさんあります。例えば「drive a hard bargain」という表現。これは「厳しい条件を突きつける」「一歩も引かずに交渉する」という意味です。相手を追い込むようなタフな交渉人を指して使われます。一方で、互いに譲歩し合う際には「meet someone halfway(中間地点で会う=歩み寄る)」という表現が好んで使われます。
また、交渉の主導権がどちらにあるかを示す際に、スポーツの比喩がよく使われます。「The ball is in your court」は、直訳すれば「ボールはあなたのコートにある」ですが、交渉の場では「判断を下すのはあなただ」「次はそちらが提案する番だ」という意味になります。テニスなどのラリーをイメージすると分かりやすいでしょう。
面白い表現に「Everything is on the table」があります。「全ての条件がテーブルの上にある」という意味から、隠し事なしで「あらゆる可能性を検討する用意がある」という前向きな姿勢を示す際に使われます。
文脈によっては「concession(譲歩)」という言葉も重要です。交渉は単に自分の主張を通すだけでなく、何を差し出すか(譲歩するか)のゲームでもあります。英語圏の交渉術では、最初に大きな要求を出し、少しずつ譲歩していくことで合意に導く「アンカリング」という手法が一般的ですが、こうした戦略も言葉の端々に現れます。
このように、英語における「交渉」は、単なる話し合い以上の意味を持っています。語源が示す通り「休息を返上して挑む真剣勝負」でありつつも、スポーツのようなフェアプレイの精神や、言葉遊びのようなユーモアも含まれています。
