最初に習う英単語の一つ「he(彼)」。男性を指す三人称単数の代名詞として誰もが知る単語ですが、英語の歴史や現代の社会的な変化において、実は最も大きな波に直面している言葉の一つです。
かつての英語圏では、性別が分からない人物や、「誰でも」といった不特定多数の人を指す際、便宜的に「he」が使われていました。例えば、「学生は自分の宿題をしなければならない(A student must do his homework.)」といった具合です。これを「総称のhe」と呼び、長い間文法的に正しいとされてきました。
しかし、現代ではこの使い方は大きく変化しています。「男性代名詞をデフォルトにするのは不平等である」という認識が広まり、現在では性別を特定しない場合、単数の人物であっても「they」を使うのが主流になっています(単数のthey)。かつて「he」が担っていた役割が、社会の価値観の変化とともに「they」へと移行しているのです。
文法的な特殊ルールとして、宗教的な文脈における大文字化があります。キリスト教などの文献において神(God)を代名詞で受ける場合、文の途中であっても敬意を表して「He」や「His」と大文字で表記されます。これは単なる「男性」という枠を超え、神聖な存在を示す特別な役割です。
また、動物に対する代名詞の使い方も興味深いです。ペットなど性別が分かっている場合は「he」や「she」を使いますが、性別が不明な動物の場合、昔はとりあえず「he」とするか「it」を使うのが一般的でした。ちなみに、船や国家などの名詞は伝統的に女性名詞として「she」で受けられることが多いという対照的な特徴もあります。
このように、「he」というたった2文字の単語には、かつての文法ルールから、現代のジェンダーインクルーシブな表現への過渡期が色濃く反映されています。日常的に使うシンプルな単語だからこそ、社会の移り変わりを最も敏感に映し出す鏡になっていると言えるでしょう。
