英語学習において、多くの人が最初にぶつかる壁が「三人称」ではないでしょうか。特に「三人称・単数・現在」の時に動詞に「s」をつける、いわゆる「三単現のs」は、テストで忘れて悔しい思いをした記憶がある方も多いはずです。しかしこの三人称、単なる文法ルールとしてだけでなく、言葉の歴史や社会の変化を映し出すとても興味深い存在です。
そもそも、なぜ三人称の単数にだけ「s」がつくのでしょうか?実は古英語(昔の英語)の時代には、一人称、二人称、三人称それぞれで、さらに単数か複数かによって動詞の語尾がすべて異なっていました。現代のフランス語やドイツ語のような複雑な活用を持っていたのです。しかし、長い歴史のなかで言語がシンプル化していく過程で他の語尾変化は消え去り、なぜか三人称単数の「s」だけが化石のように現代まで生き残りました。つまり、あのやっかいなルールは、古い英語の名残なのです。
また、現代の英語圏で大きなトピックとなっているのが「単数のthey(Singular they)」です。本来「they」は「彼ら・彼女ら」という複数形ですが、近年では性別を特定しない(または男女の枠に当てはまらない)単数の人物を指す代名詞として公式に認められ、広く使われています。最新のトレンドのように思えますが、実はシェイクスピアなど中世の作家たちも「単数のthey」を使っていた記録があり、古い用法が現代の価値観に合わせて復活したとも言えます。
さらに、自分自身のことを三人称で呼ぶ行為(例えば「ジョンはこう思うよ」のように自分の名前を主語にすること)は、英語では「illeism(三人称自称)」と呼ばれます。日本語では小さな子供が自分の名前を呼ぶのは可愛らしいとされますが、英語圏の大人社会でこれを多用すると、ひどく傲慢な人物か、あるいはコミカルなキャラクターのように響いてしまうため注意が必要です。
このように、無機質な文法用語に思える「三人称」も、少し視点を変えれば、言葉がどのように削ぎ落とされてきたか、社会の価値観がどう変化しているかを教えてくれる面白いテーマです。「三単現のs」をつける時、その背後にある長い歴史に少しだけ思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
