英語や日本語の文章は左から右へ進みますが、アラビア語やヘブライ語は右から左へ書かれます。「どうして方向が違うんだろう?」と不思議に思ったことはありませんか。
実は、書き方の向きには歴史的な理由があります。古代の文字は石や粘土板に刻むことが多く、右利きの人にとっては右から左へ彫る方がやりやすかったと言われています。彫刻刀を右手に持ち、左手で板を押さえると、自然に右から左へ動かす方がスムーズだからです。こうして古代ヘブライ語やアラビア語のように右書きの文字文化が定着しました。
一方、パピルスや紙のように「書く」素材が主流になると事情が変わります。右手で筆やペンを持つ場合、左から右に書けば手が文字の上をこすらずに済むんです。インクが乾かないうちにこすれてしまう心配も減ります。この流れから、ギリシャ語やラテン語、そしてそれを受け継いだ英語は左書きが主流になりました。
つまり、文字の方向は「どんな道具で、どんな素材に書いていたか」に左右されてきたんですね。面白いのは、古代ギリシャ語には「牛耕式」と呼ばれる書き方もあったことです。これは、1行目を左から右へ、次の行を右から左へ、まるで牛が畑を耕すように行き来して書く方法。効率的ですが、読む側にはちょっと大変だったようです。
今では印刷やデジタル機器のおかげで、方向の違いは大きな問題ではありません。でも、文章の流れる向きには、それぞれの文化が積み重ねてきた歴史の跡が残っているんですね。文字の向きを意識してみると、世界の言語を眺めるのが少し楽しくなるかもしれません。