英語を学んでいると、多くの人がつまずく発音のひとつに「th」があります。「think」や「this」に出てくるあの音ですね。日本語には存在しないため、慣れるまで時間がかかります。では、なぜ英語にはこんな独特な音が残っているのでしょうか。
実は、この「th」の音は「歯摩擦音」と呼ばれるもので、舌を歯に軽く当てて空気を出すことで作られます。世界の言語を見ても、この音を持っている言語はそれほど多くありません。スペイン語の一部方言やギリシャ語などにありますが、かなり珍しい部類に入ります。
英語のもとになった古英語では、文字として「þ(ソーン)」や「ð(エス)」が使われていました。これはまさに「th」の音を表すための特別な文字です。ところが、11世紀のノルマン征服以降、英語はラテン文字に統一され、独自の文字は消えてしまいました。その代わりに「t」と「h」の二文字で音を表すようになったわけです。
では、なぜ他の言語では消えてしまったのに、英語には残ったのでしょうか。一つの理由は、発音が十分に区別されていたからです。「thin」と「sin」、「then」と「den」のように、意味を区別する重要な役割を果たしていたため、消えにくかったと考えられています。
ただし、現代でも「th」は弱点になりやすい音です。母語話者でも一部の方言では「th」を「f」や「d」に置き換えることがあります。ロンドンの一部では「think」が「fink」と発音されることもあります。
つまり、英語の「th」は珍しい音でありながら、言語の歴史や地域差を映し出す面白い存在でもあるわけですね。英語が苦手な人も「歴史の生き残りを口にしているんだ」と思うと、ちょっと楽しく感じられるかもしれませんね。