英語の文章で頻繁に目にする「‘(アポストロフィ)」。省略を表したり所有を示したりと、非常に小さな記号ですが、その背景には英語の歴史や合理的な進化のプロセスが隠されています。
アポストロフィの主な役割の一つは「省略」です。「don’t(do not)」や「I’m(I am)」のように、文字が取り除かれた場所に打たれます。この語源は、ギリシャ語で「背を向ける」を意味する「apostrophos」にあります。言葉を短くしてリズムを整え、発音を滑らかにするために、文字を「追い出した」跡としての役割を果たしているのです。
もう一つの重要な役割が「所有」を表す「‘s」です。実は、この「’s」は昔の英語の名残だと言われています。中世の英語では、所有を表す際に単語の後ろに「-es」をつけていました。例えば「kinges(王の)」といった具合です。時代とともにこの「e」の発音が消え、消えた「e」の代わりにアポストロフィが打たれるようになり、現代の「king’s」という形に定着しました。
アポストロフィの使い分けで最も多くの人を悩ませるのが、「it’s」と「its」の区別でしょう。「it’s」は「it is」の省略形ですが、所有格の「その〜」を指す場合は「its」とアポストロフィを付けません。これは、代名詞の所有格(his, her, ourなど)にアポストロフィを使わないというルールに合わせたためですが、ネイティブスピーカーでも間違えることが多い、英語における「最難関」の一つとされています。
また、英語圏には「Greengrocer’s apostrophe(八百屋のアポストロフィ)」というユニークな呼び名があります。これは、お店の看板などで「Apple’s 50 cents」のように、単なる複数形(Apples)に間違えてアポストロフィをつけてしまうミスを揶揄した言葉です。それほどまでに、この小さな記号は英語の読み書きにおいて間違いやすいポイントなのです。
一方で、地名からアポストロフィが消えるという現象も起きています。例えば、アメリカの地名委員会は、地図上で記号が汚れと間違われないように、多くの地名からアポストロフィを削除しました。「Pikes Peak」などがその例ですが、歴史的な経緯を重んじる地元住民との間で論争になることもあるそうです。
このように、アポストロフィは単なる文法の記号ではなく、言葉の響きを滑らかにしようとした先人たちの工夫や、言語の簡略化の歴史を物語っています。次に英文を読むときは、この小さな記号が何を「追い出した」のかに注目してみると、英語の構造がよりクリアに見えてくるかもしれません。
