英語で「学位」は一般的に「degree」と表現されますが、学士、修士、博士といった段階ごとの呼び名や、アカデミア特有のラテン語由来の表現には、西洋の大学の歴史や伝統が色濃く反映されています。
まず、大学を卒業して得られる「学士」は「bachelor」と呼ばれます。この単語には「独身男性」という意味もありますが、語源は異なります。学位のbachelorは、中世ラテン語の「baccalaureus」に由来し、勝利の象徴である「月桂樹の実(bacca lauri)」と関係があると言われています。一方、さらに上の「修士」は「master」。「師匠」や「達人」を意味する通り、特定の学問を修めた者を指します。
そして最高位の「博士」は「doctor」ですが、ここで疑問に思うのが「医者もドクターではないか?」という点です。実は、語源であるラテン語の「docere」は「教える」という意味でした。つまり、歴史的には「教える資格を持つ人(博士)」が先で、後に医療の専門家も敬意を込めてこう呼ばれるようになったのです。ちなみに博士号「PhD」は「Doctor of Philosophy」の略ですが、ここでのPhilosophyは「哲学」という科目だけでなく、「知を愛する(学問全般)」という広い意味を持っています。
卒業式を「graduation」と言いますが、アメリカなどの大学では「commencement」という言葉も公式に使われます。commenceは「開始する」という意味。「卒業は終わりではなく、社会人としての人生の始まりである」というポジティブなメッセージが込められた、非常に含蓄のある表現です。
また、学位や成績を表す際には、今でもラテン語が多用されます。母校のことを「育ての母」という意味で「alma mater」と呼んだり、最優秀の成績で卒業することを「summa cum laude(最上の称賛をもって)」と表現したりします。これらは、中世ヨーロッパの大学がラテン語を公用語としていた名残です。
文法的な使い方としては、前置詞の選び方に注意が必要です。「経済学の学位」と言う場合は「a degree in economics」と「in」を使い、「ハーバード大学の学位」と言う場合は「a degree from Harvard」と「from」を使います。また、具体的な学位名(Bachelor of Arts)は大文字で始めますが、一般的な「学士号」と言う場合(bachelor’s degree)は小文字で書くのが一般的です。
このように、英語の「学位」にまつわる表現は、単なる資格の名前ではなく、中世からの伝統や、「知」に対する敬意が込められた歴史ある言葉なのです。
