英語で過去の出来事を表す「過去形」は文法用語で「past tense」と呼ばれます。単に昔のことを語るためのルールと思われがちですが、その成り立ちや不規則変化の歴史、そして心理的な使い方を紐解くと、英語という言語の奥深さが見えてきます。
英語の過去形といえば、動詞の語尾に「-ed」をつける規則動詞が基本です。実はこの「-ed」、元々は「〜をした」という意味の「did」に由来すると言われています。つまり、「play(遊ぶ)」に「did(した)」がくっついて「play-did」となり、それが長い年月をかけて短縮され「played」になったという説が有力です。
一方で、「go」が「went」になったり、「buy」が「bought」になるような不規則動詞(irregular verbs)も存在します。なぜこれらは規則に従わないのでしょうか?それは、これらの単語が人々の生活に密着した非常に古い言葉だからです。日常的な使用頻度が高すぎたため、文法が「-ed」に統一される波に飲み込まれず、古代の形をそのまま現代まで保ち続けているのです。
特に面白いのが「go」の過去形「went」です。「go」の原型から完全に形が変わっていますが、実はこれ、元々は「wend(進む)」という全く別の動詞の過去形でした。「go」の本来の過去形が歴史の中で使われなくなり、代わりに「wend」の過去形である「went」を乗っ取ってそのまま定着してしまったという、ユニークな借用の歴史を持っています。
また、過去形は「過去の出来事」を話すためだけに使われるわけではありません。相手に丁寧にお願いをする時の「Could you 〜?」や、現実とは違う妄想を話す仮定法の「If I were a bird(もし私が鳥だったら)」などにも過去形が使われます。これは、過去形が持つ「現在との距離感」を利用しているからです。時間的な距離だけでなく、現実からの距離(仮定)や、人間関係の距離(丁寧さ・遠慮)を表現するための便利なツールとして進化してきました。
このように、英語における「過去形」は、単なる時間軸の移動にとどまらず、言葉の進化の痕跡や、人間関係の機微を表す心理的なメーターとしての役割も担っています。次に過去形を使う時は、その言葉が越えてきた長い歴史と「距離感」に思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
