きのこの分類って複雑ですよね。スーパーではキノコは野菜コーナーに並んでいるので、野菜のようにも思えますが、実はきのこは野菜ではありません。今回は自分のメモも兼ねて、きのこの定義や語源などについてまとめました。
きのこは菌類
分類学ではキノコは菌類に分類されています。
そのため、菌類の1つであるカビや、菌類と共生するコケなどと近い存在になります。
キノコの本体は、糸状の構造を持つ菌糸(きんし)から構成されています。この菌糸が何層にも積み重なって肉眼で見えるようになった状態がキノコと呼ばれています。菌糸は菌類以外にも微生物などが生成しています。
一般にキノコと呼ばれているのは、実は胞子を作るための器官で、子実体(しじつたい)と呼ばれています。カビは(大きな)子実体は作りません。小さな子実体を作る種類はいるようです。そのため、菌類の中でも、目に見える大きな子実体を作るのがキノコで、そうではないのがカビと分類できます。
- キノコ → 子実体を作る菌類
- カビ → 子実体を作らない菌類
きのこは植物ではない
きのこは菌類なので、植物ではないと言うことができます。
植物と菌類の大きな違いは以下の次の2つあります。
- 菌類は葉緑体がない。そのため光合成ができない。
- 菌類は栄養を採取する方法が植物と異なる。
1つ目は構造の違い、2つ目は栄養の取り方の違いです。
菌類は、自分から餌を取る動物や、光合成を行う植物とは違って、菌糸を広げて栄養を吸収します。そのため菌類は、動物、植物と並ぶ第三のグループにも位置付けられています。
昔はきのこは植物だった
過去にはキノコが植物に分類されていた時代もありました。
生物分類学で菌類がどのように扱われてきたのかについて簡単に振り返りたいと思います。
最も古典的な考え方は、生物界を動物界と植物界の2つに分ける「二界説」です。二界説は18世紀に「分類学の父」とも呼ばれるスウェーデンの生物学者のカール・フォン・リンネが提唱した考え方で、生き物を「動物」と「動物以外(=植物)」に分類しました。この二界説では、菌類は動物ではないという理由から、菌類は植物に分類されました。
ただ、学問た科学技術の発展により、微生物や単細胞生物などのような、今まであまり知られていなかった生き物が認知されるようになり、どうやら動物と植物で2分類するには限界があるようだ、と考えられるようになりました。1860年頃には3界説が、1940年頃には4界説が、1970年頃には植物・動物・菌・原生生物・モネラの5つに分ける「五界説」が提唱されました。
原生生物はミドリムシやアメーバなど、モネラは細菌などが例としてあげられます。
五界説の提唱者で最も有名なのが、アメリカの生物学者のロバート・ホイッタカーです。ホイッタカーは「生き物が栄養を摂取する方法」に注目して、「生産者・消費者・分解者」の3つに分類しました。
- 生産者:光合成を行う植物
- 消費者:自分で餌を取る動物
- 分解者:表面で栄養吸収を行う菌類
この3つ目の分解者がキノコなどの菌類にあたります。
ただ残念なことに、教育界などではまだまだ有力な五界説ですが、既に古い理論になりつつあるようです。電子顕微鏡や解析技術などの発展によって、微細構造の研究が飛躍的に進んだからです。新しい発見があるたびに物事の捉え方や常識が変わるパラダイムシフトが起こります。分類学も他の学問と同じように、絶対があるわけではなく、現在のところこう分類できる、ということに過ぎません。きのこもいつか再分類もしくは細分類されることがあるかもしれません。
きのこは野菜ではない
きのこは植物ではないので野菜でもありません。
野菜とは、食用の草本植物のことを指すからです。草本(そうほん)は木にならない植物のことです。つまり、
- キノコは菌類なので植物ではない。
- 野菜は食用の草本植物である。
- キノコは植物ではないので野菜でもない。
という三段論法です。
きのこの語源は「木の子」
キノコという名前は「木を切り倒したところによく生えている」ということに由来します。「木の子」と書いて「きのこ」と呼ばれるようになりました。
とはいえ、漢字では木の子とは書かずに「茸」と書くことが多いですよね。例えば、舞茸や椎茸などです。茸という漢字は「草冠」に「耳」と書きますが、耳たぶのような食感のことや、耳にうぶ毛が生えている外見の様子から、茸という漢字が使われるようになったようです。
生物学的にはキノコは植物ではないので木の子供ではありませんが、木と共生しているので養子のような存在かもしれませんね。
mushroom(きのこ)はmoss(苔)と同じ語源?
英語ではキノコはmushroom、菌類はfungi(単数形はfungus)と言います。
もともとmushroomは菌類全般を指す言葉でしたが、15世紀頃に食用のキノコにも適用されるようになりました(参照)。この頃からキノコは菌類だと認識されていたようです。
mushroomの語源をもう少しを調べてみると、英語のmushroom(きのこ)とmoss(苔)は同じ語源の可能性もあるそうです。というのも、英語のmushroomは、フランス語のmousse (苔、ムース)から借用したとする説があるからです。
つまり、英語のmossとフランス語のmousseは同根語、英語のmushroomとmossは二重語、と言えるかもしれません。
菌類と共生するコケは分類学だけでなく言語学でもキノコと関わりが深いようですね。
語源を始めると長くなりそうなのでこの辺にします。
まとめ
今回はキノコの分類や語源について振り返りました。
分類学では、キノコは菌類に分類されているので植物ではありません。菌類の1種であるカビや、菌類と共生するコケなどと近い存在です。植物ではないので食用の草本植物である野菜でもありません。
菌類と植物の大きな違いは以下の2点です。
- 菌類は葉緑体がないので光合成ができない。
- 菌類は栄養を採取する方法が植物と異なる。
過去にはキノコなどの菌類が植物だった時代もありました(二界説)。研究が進み、栄養摂取方法などから、菌類と植物は違う分類になりました(五界説)。現在では、五界説も古い理論になりつつあり、キノコの分類もいつか変わることがあるかもしれません。