中学校で真っ先に習う英単語の一つ、「his(彼の、彼のもの)」。あまりにも基礎的な単語であるため、深く考える機会は少ないかもしれませんが、実はこの短い単語には、英語という言語の進化や歴史の面白いエピソードが詰まっています。
まず文法的な特徴として、「his」は一人二役をこなす珍しい単語です。例えば「彼女の」は「her」、「彼女のもの」は「hers」と形が変わりますし、「私の」も「my」と「mine」に分かれます。しかし「his」は、「This is his pen(彼の)」と「This pen is his(彼のもの)」の両方で同じ形を使います。これは、すでに「s」で終わっている単語にさらに「s」をつけて「hiss」とすると、蛇が威嚇する「シャーッ」という音(hiss)と同じになってしまい不自然だったため、同じ形に落ち着いたと言われています。
さらに歴史を遡ると、「his」はかつて「それの(its)」という意味でも使われていました。古英語の時代には、人間以外の物や動物(中性名詞)の所有格も「his」だったのです。そのため、シェイクスピアの作品を読むと、無生物に対して当たり前のように「his」が使われています。私たちがよく知る「its」という単語が一般化したのは、もう少し後の時代になってからです。
また、社会の変化を映し出す鏡としての側面もあります。かつて英語では、「誰もが(everyone)」などの性別が特定できない単語を受ける代名詞として、便宜上「his」を使うのが正式なルールでした(例:Everyone must do his duty.)。しかし現代では、ジェンダー平等の観点からこの表現は避けられるようになり、単数であっても「their(単数形のtheir)」を使うのが標準的になっています。
日常的なフレーズとしては、夫婦やカップルのお揃いのグッズを指す「his and hers(ペアの)」という表現がよく使われます。タオルや時計などの商品タグで見たことがある方もいるかもしれません。また、文中で突然「His」と大文字になった場合は、「His Majesty(国王陛下)」のように王族や神に対する敬意を表す特別な記号として機能します。
たった3文字の「his」ですが、そこには発音の工夫から、中世の文法のなごり、そして現代のジェンダー意識まで、英語の歩んできた歴史がギュッと凝縮されています。一番身近な単語の裏側を知ることで、言語の面白さをより感じられるのではないでしょうか。
