多言語学習をしていると、似ている単語をよく見かけますが、ヨーロッパの言語は共通の語源を持っている同根語(cognate)が数多くあります。
そこで今回は「ヨーロッパの言語に同じ単語が多い理由」についてご紹介します。
ヨーロッパの言語は似ている
共通の語源を持っている単語は「同根語(cognate)」と呼ばれ、ヨーロッパの言語でよく見られます。
例えば、英語のhistory(歴史)やstory(物語)は、どちらもラテン語やギリシャ語のhistoriaという単語に由来しています。
ラテン語やギリシャ語のhistoriaは、英語だけでなくヨーロッパ広域に拡散されています。
- ゲルマン語派
英語 history, story
ドイツ語 Historie
オランダ語 historie
デンマーク語 historie
ノルウェー語 historie - イタリック語派
イタリア語 storia
スペイン語 historia
フランス語 histoire
ポルトガル語 história
ルーマニア語 istorie - スラブ語派
ポーランド語 historia
チェコ語 historie - ウラル語派
ハンガリー語 história
どの言語もスペルがとても似ていますね。多言語を学習する際は、このような同根語から覚えていくと効率的です。
このように、欧州言語は総じて語彙の共通度(lexical similarity)が高い傾向にあります。語彙の共通度とは、「別の言語にどのくらい同じ単語があるのか」を表した指標のことす。
もちろん、語彙が似ているからといって、文法や音韻などの違いがあるので、言語的にも類似しているとは限りません。日本語でも、ヒストリーやストーリーなどの外来語は一般的に使われています。ただ、語彙の共通度は、多言語を勉強する際に「勉強のしやすさ」を測る1つの指標にもなります。
同じ単語が使われているのなら学習しやすいですからね。
ヨーロッパの言語が似ている3つの理由
ヨーロッパの言語が似ている要因を大別すると、①もともと同じ言語だった、②ラテン語やギリシャ語の影響、③言語接触の機会が多い、という3つに分けることができます。順番に見ていきたいと思います。
もともと同じ言語だった
1つ目の理由は、もともと同じ言語だったからです。
ヨーロッパの言語の多くは、インド・ヨーロッパ語族(Indo-European languages)という同じ言語グループに属しています。この語族は、共通の祖先であるインド・ヨーロッパ祖語(Proto-Indo-European)から分岐したグループで、言わば大きな家族のような関係です。
インド・ヨーロッパ祖語については、文献が残っていないので確かな情報はありませんが、アナトリア仮説(Anatolian hypothesis)によれば、紀元前7000年頃にアナトリア半島から、クルガン仮説(Kurgan hypothesis)によれば、紀元前6000~紀元前5000年前頃にロシア・ウクライナ南部から広がったとされています。
インド・ヨーロッパ祖語から引き継いでいる単語は、古くから自然に存在しているものに多く、例えば「星」や「夜」などが例としてあげられます。
- 星|英語:star, ドイツ語:Stern, オランダ語:ster, イタリア語:stella, スペイン語:estrella, フランス語:étoile, ポルトガル語:estrela
- 夜|英語:night, ドイツ語:Nacht, デンマーク語:nat, スペイン語:noche, フランス語:nuit, ポルトガル語:noite, ルーマニア語:noapte
言語系統がより近い関係にあるほど、スペルもより類似しているようです。
例えば、スペイン語とポルトガル語は俗ラテン語から誕生した姉妹言語で、語彙の80~90%が共通しています。単語のスペルを見てみても(星はestrellaとestrela、夜はnocheとnoite)、かなり似ていますよね。
もともと同じ言語だったのなら、現在は他の言語だとしても、似ている言葉がたくさんあるのは不自然ではないですよね。スペイン語やフランス語などのロマンス諸語(Romance languages)は相互理解可能性 (mutual intelligibility)があると言われていますが、言語学者によっては「ラテン語の方言」に過ぎないと主張する人もいるくらいです。
実際に方言なのかどうかはともかく、議題にあがるほど親密な関係であるのは間違いないようです。多言語を学習している身としては羨ましいですね。
ラテン語とギリシャ語の影響
2つ目の理由は、ラテン語とギリシャ語の影響が大きいことです。
英語のhistoryとstoryも、ラテン語やギリシャ語に由来する言葉でした。以前紹介した「英語の語彙に影響を与えた外国語」の記事でも取り上げましたが、英語はラテン語から30%近く、ギリシャ語から6%近くの単語を取り入れています。
「英単語の起源になった外国語の割合」出典:Wikimedia Commons
ギリシャ語に由来する単語は6%しかありませんが、ラテン語やフランス語経由で英語に伝わった単語でも、更に語源をさかのぼるとギリシャ語にたどり着く場合が多々あります。例をあげると、chair(椅子)、lamp(ランプ)、butter(バター)などの単語です。
古代ローマや古代ギリシャで創案され、言語化された様々な概念・知識・学問・技術などに関する単語は、その他の言語にも継承され、現在でも共有されています。古代ローマやギリシャは偉大ですね。
言語接触の機会が多い
3つ目の理由は、言語接触の機会が多いことです。
言語接触(language contact)とは、異なる言語が相互に影響を及ぼすことです。長期的に接触を繰り返すことで、使用される単語や言語的な特徴が似通っていくことがあります。
例えば、ネパールで話されているネワール語(ネパール・バサ語)が一例です。ネワール語は、ネパール語やサンスクリット語などの言語と長期的な接触を繰り返した結果、語彙だけでなく文法の特徴までも吸収しました。
言語接触はどの国にも起こる現象です。日本でも3世紀頃(諸説あり)から漢語がもたらされ、16世紀頃からポルトガル語、17世紀からはオランダ語、19世紀頃からは英語・フランス語・ドイツ語などの外来語が取り入れられて来ました。ただ、ネワール語のように文法まで吸収しているわけではありません。
言語学的な日本語の立ち位置が、孤立言語(language isolate)もしくは日本列島の言語からなる日琉語族(Japonic languages)に分類されているのは、物理的に孤立しているのも一因だと考えられます。日本などの島国と違い、陸続きの地域では言語接触の機会が比較的に多くなるからです。
ただ、近年ではインターネットの普及によって、言語接触の機会が場所を問わず爆発的に増加し、日常生活の中でも当たり前にカタカナ語や外来語が使われるようになりました。「地続きのヨーロッパ」と「島国の日本」という違いは、物理的には変わらないかもしれませんが、ネット上ではないようなものです。
特に、専門用語などに関しては、共通の用語が使われることが多々あります。web制作などにおいても、font, border, screen, function, consoleなどの言葉が翻訳されずに使用されているように、当たり前のようにコードスイッチング(code-switching)が行われています。
現在では言語的な違いは残っていますが、いつかは言語接触によって全て1つに言語収束(language convergence)していくのかもしれません。もしくは、機械翻訳の向上などで、言語の特徴を残したまま、共存していく未来もあるかもしれません。
まとめ
今回は、「ヨーロッパの言語に同じ単語が多い3つの理由」についてご紹介しました。
ヨーロッパの言語が似ている理由は、以下の3つに分けることができます。
- もともと同じ言語だった
- ラテン語やギリシャ語の影響
- 言語接触の機会が多い
ヨーロッパの言語の多くは、インド・ヨーロッパ語族という同じ言語グループに属しているので、言わば大きな家族のような系統関係にあります。古代ローマや古代ギリシャで創案され、言語化された様々な単語は、現在でも継承されていますし、陸続きで言語接触の機会が多い、ということも言語が類似する要因となっています。
近年では、ネットの普及により言語間の接触が爆発的に増加しました。言語的な違いは、いつかは言語接触によって全て1つに言語収束していくのかもしれませんし、もしくは、機械翻訳の向上などで、言語の特徴を残したまま共存していくのかもしれません。