異なる言語が接触すると何が起こるのか?【言語接触とは】

コンタクト言語学

異なる言語が接触すると、語彙が混ざったり、新しい言語が生まれたり、様々なことが起こります。日本語も無関係な話ではなく、中国語や英語など様々な言語の影響を受けて現在の形になっているので、言語接触はどの言語にも起こり得る現象です。

今回は「言語接触とは何か」「言語接触によって何が起こるのか」について解説します。

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言語接触とは?

言語接触(language contact)とは、2つ以上の言語が相互に影響を及ぼし合うことです。

例えば、ヨーロッパなど地理的に繋がっている言語の国境(language border)付近や、幕末に日本が開国して欧米諸国と接触した時のように別の社会との接触で起こる現象です。

グローバル化による多文化・多言語社会が進展し、日常生活の中でも違う言語を持つ人との接触は増加しているので、どこででも起こり得る現象と言えます。

基本的にどの言語も何かしらの言語接触を受けて形成されています。日本語の場合、外来語やカタカナ語がわかりやすい例ですね。メール、パソコン、コンビニ、スマートフォンなどのカタカナ語を和語(大和言葉)に言い換えるのは困難ですよね。

ごがくねこ
ごがくねこ

スマホを和語で表現すると「多機能型携帯電話」になるのでしょうか。

言語接触で何が起こるのか

言語接触によって起こる現象には以下の例があります。

  1. 単語を借用する
  2. 文法を借用する
  3. 言語が置き換わる
  4. 新しい言語が誕生する
  5. コードスイッチング

順番に見ていきたいと思います。

単語を借用する

一番身近な現象は単語を借用することです。

借用語(loanword)、外来語、カタカナ語などとも呼ばれています。借用語と外来語の違いは、借用語が「他の言語から取り入れられた語彙全般」を指すのに対し、外来語は「漢語以外の借用語」のことで、主にヨーロッパ言語に由来しています。

日本語の場合

まずは最も馴染みが深い日本語の場合を見ていきましょう。

外国語から日本語へ

2002年に発行された『新選国語辞典 第8版』では、「収録されている単語の語種」の内訳を公表しています。語種とは、「和語、漢語、外来語」のような出自の種類のことです。『新選国語辞典』によれば、日本語の語種の内訳は下のようになっています。

日本語の語種の割合

  • 和語:33.8%(24,708語)
  • 漢語:49.1%(35,928語)
  • 外来語:8.8%(6,415語)
  • 混種語:8.4%(6,130語)
  • 収録語数:73,181語

出典:『新選国語辞典 第8版』、2002年

辞書に載っている単語においては、日本固有の和語は3分の1しかなく、半分近くは漢語由来になっています。

日本語には元々文字がありませんでした。日本人が始めて漢語と接触したのは、弥生時代(1世紀頃)にもたらされた金印「漢委奴国王印」だと考えられていますが、当時の日本人が漢字だと識別していたのかは定かではありません。日本に漢字が伝わったのは3~4世紀頃とされています。『古事記』によると、百済の王仁が『論語』と『千文字』と呼ばれる漢文の長詩を伝えたという伝承が残っています。

6世紀頃に儒教や仏教が普及するにつれ、徐々に漢語は日本語に取り入れられていきました。漢文で書かれた書物を読むために識字能力も広がり始めます。7世紀頃には漢字の読みを当てた日本独自の「万葉仮名」が誕生し、平安時代(9世紀頃)には万葉仮名を簡単にした平仮名(ひらがな)や片仮名(カタカナ)使われるようになりました。

日本語と中国語の関係は切っても切れない関係です。ただ、先ほど紹介した「日本語の語種」は、約20年前(2002年)のデータで、最近では英語由来などのカタカナ語も増加しています。また、対象はあくまで「辞書の単語」なので、話し言葉に限れば和語や外来語の割合が多くなる、とも言われています。

日本語は中国語以外にも多くの言語を取り入れています。最も早く取り入れたヨーロッパの言語は、室町時代(16世紀頃)のポルトガル語です。かの有名な「鉄砲伝来」はヨーロッパ人が初めて日本を訪れた出来事でもありました。

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江戸時代にはオランダ語、明治時代以降はドイツ語フランス語、そして英語などから、数多くの単語を借用してきました。アジェンダやらマニュフェストやらの外来語(カタカナ語)は最近特に急増したようにも思えますが、日本語と外国語の言語接触はずっと以前から鎖国の時にも起こっている現象です。

日本語から外国語へ

一方で、日本語の単語が外国語へ輸出されるケースもあります。

例えば、最近では漫画やアニメの影響で日本語の「かわいい(kawaii)」という言葉が使われてい地域もあるようです。海外の辞書に載っている日本語には以下のような例があります。

食べ物:bento(弁当)、sushi(寿司)、sukiyaki(すき焼き)、takoyaki(たこ焼き)、tempura(天ぷら)、tofu(豆腐)、tonkatsu(とんかつ)、yakitori(焼き鳥)、wasabi(わさび)、スポーツ:judo(柔道)、karate(空手)、kendo(剣道)、sumo(相撲)、その他:haiku(俳句)、karaoke(カラオケ)、kimono(着物)、ninjya(忍者)、manga(漫画)、samurai(侍)、tsunami(津波)

食べ物、武道、文化など、翻訳が難しい日本独自の単語が多いですね。

また、日本で作られた和製漢語が中国に逆輸入されているケースもあります。例えば次のような単語です。文化、文明、進化、時間、経済、法律、科学、物理、文学、哲学、美術、宗教、集団、革命、自由、思想、理論、意識、感性、現実、主観、客観。

和製漢語は、江戸時代にヨーロッパから日本に伝わった新しい学問や概念を、日本語に翻訳した頃から増加し、多くの和製漢語が中国でも採用されました。ただ、日本でしか通じない漢字も多いので中国で使う際には注意が必要です。

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英語の場合

英語もとても借用語が多い言語で、古英語から引き継がれている本来語(native word)は約20~30%に過ぎないという研究もあります。

下のグラフは「英単語の起源になった外国語の割合」を表しています。
英単語の起源の割合

出典:Murraytheb at English Wikipedia, Public domain, via Wikimedia Commons

このグラフによると、英単語の由来は、ラテン語が29%、フランス語が29%、ゲルマン語が26%、ギリシャ語が6%となっています。英語はゲルマン語派(Germanic languages)に属しているので、ゲルマン語の26%がネイティブワードにあたります。

ごがくねこ
ごがくねこ

日本語辞典における和語の割合は33.8%でしたが、それと大体同じくらいですね。

英語が特に大きな影響を受けたのがラテン語やフランス語です。英語の語派はゲルマン語派なので、フランス語が属するイタリック語派(Italic languages)とは別の言語グループですが、英語とフランス語の「語彙の共通度」は約25~45%ほど一致しているという研究もあります。

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英単語にフランス語が流入した最も大きな出来事は、1066年のノルマン・コンクエスト(Norman Conquest)です。この出来事により、イングランドがノルマン人に征服され、ノルマン語と英語が混ぜ合わさったアングロ=ノルマン語(Anglo-Norman language)が広く話されるようになったからです。

ノルマン人は、北方系ゲルマン人の中でも、フランス北部のノルマンディーに定住していた人々です。彼らが話すノルマン語はノルマン・フランス語(Norman French)とも呼ばれ、言語学的にはフランス語の方言に位置付けられています。

貴族社会ではノルマン語やフランス語、農民社会では英語やアングロ=ノルマン語が話され、社会の2層化だけでなく使われる語彙も2層化することになりました。例えば貴族が食べるpork(豚肉)はフランス語に由来する言葉ですが、農民が飼育するpig(豚)はゲルマン語に由来する言葉です。

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言語収束

単語を借用しすぎて、元の形から大きく変わってしまうこともあります。言語がお互いに類似していく現象は、言語収束(language convergence)とも呼ばれています。

例えば、アルメニア語はペルシャ語から数多くの単語を取り入れたため、以前はペルシャ語と同じインド・ヨーロッパ語族のインド・イラン語派(Indo-Iranian languages)に分類されていました。ところが、1875年にドイツの言語学者ハインリヒ・ヒューブシュマン(Heinrich Hübschmann)によって、イラン語群とは異なることが示され提起され、現在は独自にアルメニア語派に属しています。

ごがくねこ
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言語の起源が分からなくなってしまうくらい外来語を取り込んでしまうこともあるんですね。

文法を借用する

単語だけでなく文法まで借用するケースがあります。

顕著な例がネワール語(ネパール・バサ語)です。ネワール語は4世紀頃のリッチャヴィ朝の時代からネパールのカトマンズ盆地付近で話されている言語です。中国語やビルマ語などと同じシナ・チベット語族(Sino-Tibetan languages)に分類されていますが、ネパール語やサンスクリット語などのインド・イラン語派(Indo-Iranian languages)と何世紀にも渡って言語接触を繰り返して来たため、語彙だけでなく文法の特徴(語形変化)まで吸収しました。

ごがくねこ
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何世紀も接触すると文法まで変わってしまうケースがあるようです。日本語も1000年前ならどこまで理解出来るかは未知数ですね。

ちなみに、ネワール語は14~18世紀頃までマッラ朝で栄えていましたが、18世紀末にゴルカ朝が台頭して以降、ネパール語に言語交替(後述)されました。2011年のネパールの国勢調査によれば、ネパールでは129の言語が話されていますが、ネパール語の話者数は約1182万人で44.6%を占める一方、ネワール語の話者数は第6位の84万人で3.2%に留まっています。そのためユネスコによる消滅危機言語の危険度では「危険(definitely endangered)」に指定されています。

言語接触で何が起こるのか、確実に言えることはありません。言語が混ざり合う機会が増えるだけでなく、言語の消滅問題のように、言語が置き換わってしまう「言語交替」の可能性も上昇します。

言語が置き換わる

異なる言語と接触した結果、別の言語に置き換わることもあります。言語学では、言語交替(language shift)と呼んでいます。

南米の場合

例えば、私が住んでいた南米では、多くの先住民言語がスペイン語やポルトガル語に言語交替しつつあります。田舎では比較的に先住民の言葉は残っていますが、都市部はほとんどスペイン語かポルトガル語です。というのもテレビ、新聞、学校などで使われている言語は概してスペイン語で、スペイン語を話せない人にとっては生活が難しいシステムが形成されているからです。

ごがくねこ
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南米の多くの地域では、先住民言語がスペイン語に置き換わるヒスパニック化(hispanicization)が現在進行形で進展しています。

日本語の場合

日本も無関係ではなく、琉球諸語アイヌ語が日本語へ言語交替しています。

あるコミュニティの中で元あった言葉が使用されなくなると、やがて消滅してしまうと言われています。そのため消滅危機言語に指定されているアイヌ語などでは保存運動も行われています。世界中には言語が約6000~7000あるとされていますが、一説によると、22世紀までに約半数が話し手を失い消滅してしまうそうです。

ごがくねこ
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多様性の保全も大切ですね。

新しい言語が誕生する

異なる言語を混ぜ合わせた混合言語(mixed language)やハイブリット言語(hybrid language)が誕生することもあります。

例えば、英語とスペイン語が混ざったスパングリッシュ(Spanglish)や、ポルトガル語とスペイン語が混ざったポルトニョール(Portuñol)などです。

言語学では、今ある多くの言語は共通の祖語から樹木のように枝分かれして派生したとする系統樹説(family tree theory)や系統樹モデル(tree model)が主流でした。一元的な考え方です。

一方、言語接触の考え方は系統樹説とは逆で、異なる言語同士の接触により言語は形成されたと捉えます。多元的な視点ですね。言語の特徴が他に波及することを波紋説(wave theory)と言いますが、言語接触を前提にしている理論です。

  • 言語は1つの祖語から生まれた
    系統樹説一元的
  • 言語は言語接触により生まれた
    波動説多元的

系統樹説と波紋説、どちらも説得力がある理論で正誤を判断するのは困難のようです。

例えば、ラテン語から派生したスペイン語、フランス語、ポルトガル語、イタリア語などのロマンス諸語は系統図で表せる典型的な例です。言語の相関図は樹木のように展開しています。一方、トク・ピシン(Tok Pisin)など言語接触により誕生したピジン・クレオール言語も存在します。どちらも正しい理論なのかもしれません。

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ごがくねこ
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系統樹は学際的な概念で、生物の進化を説明する際にも用いられています。

その他にも、言語接触によって起こる現象には、複数の言語を切り替えるコードスイッチング(code-switching)があります。コードスイッチングについては長くなってしまったので割愛します。よければ下記リンクからご覧ください。

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まとめ

今回は「言語接触とは何か」「言語接触によって何が起こるのか」についてご紹介しました。

言語接触とは、複数の言語が相互に影響を及ぼし合うことです。

起こり得る現象には以下のような例があります。

  1. 単語を借用する
  2. 文法を借用する
  3. 言語が置き換わる
  4. 新しい言語が誕生する
  5. コードスイッチング

言語接触によって新しい言語が誕生する場合もあれば、言語交替によって今まで話されていた言語が消滅してしまう場合もあり、何が起こるのかは状況によって様々です。

ごがくねこ
ごがくねこ

言語接触とは、言語を話す人と人との接触でもあるので、お互いにポジティブな結果になる現象だと良いですね。そうしていきたいですね。

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