英語を学ぶ際、最初に習うのにもかかわらず、最も複雑で奥深いのが「be」という単語です。「am」「is」「are」など形をコロコロと変えるこの単語は、単なる文法のルールを超えて、英語圏の哲学や文化の根底に流れる重要な概念を持っています。
そもそも「be」には、大きく分けて2つの役割があります。1つは「I am a student.」のように、主語と補語を「=(イコール)」で結びつける状態を表す役割。そしてもう1つが、「I think, therefore I am.(我思う、ゆえに我あり)」のように、「存在する」「いる」という意味そのものを表す役割です。日本語では「だ・である」と「いる・ある」という別の言葉を使いますが、英語ではこれらを一つの「be」で表現します。
「be動詞」の最大の特徴といえば、その不規則な変化です。「am, are, is, was, were, been」と、原形の「be」の面影が全くない形に変化します。なぜこれほどバラバラなのでしょうか?実は、これらは元々「全く別の古代語」だったものが、数千年の歴史の中で合体し、一つの動詞として扱われるようになったからです。言語学ではこれを「補充法」と呼びます。日常的に最もよく使う言葉だからこそ、古い言葉の破片が化石のように現代まで残っているのです。
「be」の「存在する」という意味は、数々の名言や名曲にも深い意味を与えています。シェイクスピアの戯曲『ハムレット』の有名なセリフ「To be, or not to be」は、直訳すれば「存在するべきか、存在しないべきか」となり、「生きるべきか、死ぬべきか」という究極の選択を表現しています。また、ビートルズの名曲「Let it be」は、「それをそのまま(の状態)にさせておけ」=「あるがままに任せなさい」という、深いメッセージが込められています。
日常会話から生まれたユニークな派生語に「wannabe(ワナビー)」があります。これは「want to be(~になりたい)」が短縮されて名詞化したもので、「(有名人などに)憧れている人」や、少し皮肉を込めて「~になりたがっている(けど実力が伴わない)人」を指すスラングとして定着しています。
たった2文字の「be」ですが、その中には英語の歴史の面白さや、「存在とは何か」という壮大なテーマが詰まっています。最も身近なこの単語の背景を知ることで、英語という言語のスケールの大きさを感じられるのではないでしょうか。
