月(moon)といえばどのようなイメージを思い浮かべるでしょうか。
日本では、かぐや姫や月のうさぎに見られるように、神秘的やロマンチックなイメージが強いと思います。
ヨーロッパでは、月は神秘的なイメージだけでなく、精神を狂わせるものだと信じられてきました。満月に変身する狼男が典型的な例ですね。狼男は古くからギリシャ神話やヨーロッパの民間伝承に登場していますが、満月で変身するのは必ずしも一般的ではありませんでした。「満月=狂気」というイメージから、特にハリウッド映画の演出の影響で定着したそうです。
参照:“How Hollywood Changed Werewolf Lore Forever” Den of Geek
「月=狂気」というイメージは英単語にも残っています。例えば、lunacy(狂気)はラテン語のluna(月)に由来しますが、「月の変化が狂気を引き起す」と信じられていたことが語源になっています。形容詞のlunar(月の)や人を表すlunatic(狂人)も同じ語源です。
現在でも、月の満ち欠けと人体の影響に関する研究はありますが、昔の方が今より信じられていたようです。例えば、シェイクスピアの悲劇『オセロ』にも、月が人の心を狂わせるというようなセリフがあります。
実際に、地球で起こる潮の満ち引きは月や太陽の引力が原因ですが、月は太陽より近いので月の方が影響が大きいそうです。
そんな神秘的な力を持っている月ですが、人間にとって一層身近で現実的なものに変わりつつあります。
世界では宇宙産業の規模が増々拡大し、宇宙の商業利用(commercial use of space)が活発化しています。調べてみると、2020年の宇宙産業の市場規模はおよそ45兆円でしたが、2040年には約100兆円以上に達するそうです。自動車産業が約400兆円なので、かなりの規模になります。
宇宙開発史は、ソ連が1957年に打ち上げた世界初の人工衛星スプートニク1号から、月探査は、同じくソ連が1959年に月と衝突させたルナ2号から始まりました。
その後、1969年にアポロ11号が初めて月面に着陸しましたが、これらの背景には、当時冷戦下にあったアメリカとソ連による、国家の威信をかけた宇宙開発競争がありました。それから50年が経過し、現在では民間企業による宇宙ビジネスへの参入が進んでいます。
宇宙開発には「科学的知識や技術の向上」だけでなく、通信やエネルギーなどの「社会インフラへの貢献」などのメリットがありますが、ビジネスとしても期待されています。宇宙開発で懸念されるスペースデブリ(宇宙ゴミ)でさえ、デブリ除去ビジネスとして注目されています。
- 1957年:世界初の人工衛星
スプートニク1号(ソ連) - 1959年:月への到達
ルナ2号(ソ連) - 1959年:月の裏側の撮影
ルナ3号(ソ連) - 1969年:人類初の月面着陸
アポロ11号(米国) - 2019年:月の裏側着陸
嫦娥(じょうが)4号(中国)
2022年12月11日にスペースX社のロケットが打ち上げられましたが、日本の宇宙ベンチャーispace(アイスペース)が開発した月着陸機が搭載されていました。2023年4月頃の月面着陸を目標としていますが、成功すれば日本初、そして民間初の月面着陸なんだそうです。2025年までに3回の月面調査を予定し、商業化も検討しているところだそうです。
宇宙産業は国から民間へ着々と拡大しています。
スペースX社の設立者であるイーロン・マスク氏は、2030年までに火星に基地を建設するとも述べています。スペースコロニーやテラフォーミングによる宇宙の移住構想で最も話題にあがるのは火星ですが、地球との距離が近いことから月への植民構想もないわけではありません。月には将来利用可能な天然資源が大量に潜在しているため、商業利用としての価値も多分にあります。アメリカが2017年に推し進めた「アルテミス計画」では、2024年までに最初の女性と次の男性を月面に着陸させることを目標としています。
宇宙と月の利用は、今後さらに重要かつ身近な話題になりそうです。
これから月のイメージは、暗い夜空に光輝く、遠くて神秘的なイメージから、より現実的で実体感のあるイメージに変わっていくのでしょう。眺めるものから、利用するものへ。物語から産業へ。夢から現実へ。静から動へ。
100年後の月のイメージはどのようなものになっているのでしょうね。