水の惑星で生まれた私たちにとって、水は人体の60%を占める最も欠かせない要素であり、体温調節や老廃物排出といった、身体機能の重要な役割を担っています。また、文化、農業、経済、宗教、言語にも大きな影響を与えています。
水が文化に与えた大きな影響の1つは農業です。多くの文明が大河を中心に発展してきたように、灌漑や氾濫農耕によって水や栄養が供給され、作物の生育に利用されてきました。インド(インダス川)、エジプト(ナイル川)、中国(黄河)、メソポタミア(チグリス川とユーフラテス川)のように、川の近くで形成された文明を、英語ではriver valley civilization(川流域文明, 大河文明)と呼んでいます。
また、貿易や商業の発展にも大きな役割を果たしています。例えば、水路は輸送や貿易のルートとして、港湾は商業や産業の拠点として、都市の成長や発展に寄与してきました。
信仰や儀式においては、水は浄化や再生の象徴として扱われています。例えば、ガンジス川はヒンドゥー教にとって罪を洗い流す神聖な川とされています。キリスト教では水は洗礼に用いられ、浄化や許しの象徴になっています。日本においても、神道の禊(みそぎ)、寺社の手水(てみず, ちょうず)、相撲の力水(ちからみず)、客を迎える打ち水、茶室のつくばいなど、水は清めるものとして利用されてきました。
言語においては、例えば海の力強さや畏怖、湖の静けさや優雅さのように、思想や比喩などに深いインスピレーションを与え、さまざまな慣用句やイディオム、ことわざとして用いられています。
よく使われる英語のイディオムのひとつに「in deep water」があります。これは「困難な状況に陥る」ということを意味します。deep waterは、文字通り水の深いところや深海のことで、問題が深刻で対処しにくい状況を表しています。深みにはまる、という言葉も適していますね。
似たようなイディオムに「in hot water」がありますが、in deep waterと同じく「困った状況にある」という意味で使われています。熱いお湯の中でもがいているイメージで、お風呂にゆったりと浸かっているわけではありません。イディオムは、文化によって捉えるイメージが異なるのが面白いですね。
水に関連する面白いイディオムに「test the water」があります。これは文字通り「水を調査する」という意味もありますが、比喩的に「様子を見る、事前に確認する」ことを意味しています。危険な水質をチェックしたり、子供がお風呂に入る前に温度を確認することに由来するそうです。
ほかにも「keep one’s head above water」というイディオムがあります。これは「生き延びる、何とかやっていく」ことを意味します。水面から頭を出して、何とかおぼれないように頑張ることに由来しています。切羽詰まっている様子が伝わってくる表現ですね。
水のイディオムをいくつか紹介しましたが、水に関するイメージは、謎や恐怖、逆らえない流れなどのように使われることが多いようです。「go with the flow(時代や流れに従う)」のように、穏やかな流れをイメージするものもありますが、時勢や時流のことなので、人を圧倒する強大な力も感じさせます。「go against the flow」とすれば「流れや時代に逆らう」という意味になります。
今回は、英語のイディオムの視点から、水が人間や文化に与えた影響を見てきました。水のイディオムからも、水が人間にとって絶対的な存在だというのを感じ取ることができますね。