コードスイッチングはなぜ起きるのか?原因・特徴・例について

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会話中に他の言語が混ざってしまうことを、言語学では「コードスイッチング」と呼んでいます。コードスイッチングはバイリンガルによく起こる現象ですが、実は誰にでも起こる身近な現象です。そこで今回は「コードスイッチングの定義・原因・例」についてご紹介します。

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コードスイッチングとは?

コードスイッチングとは、複数の言語や方言を会話の中で混ぜて使うことです。

コード(code)とは「言語」のこと、スイッチング(switching)とは「切り替え」のことで、「言語の切り替え」という意味があります。

コードスイッチングが話題になったのは1950年代頃でした。当時は「どちらの言語もきちんと話せない人」というネガティブな印象が主流でした。それから研究が進み、1980年代には「誰にでも起こり得る自然な現象」だと理解されるようになりました。

参照: “Switching gears: revising code-switching, n.” Oxford English Dictionary

下はコードスイッチングの一例です。

I’m hungry, 何かないの?
1日中歩いたからworn outだよ。

1つ目の例文のI’m hungryは英語で「お腹が空いた」、2つ目の例文のworn outは「疲れた」という意味です。海外のスポーツ選手や俳優のインタビューなどでも、「英語+外国語(母国語)」のコードスイッチングをよく見かけます。

コードスイッチングは文の中で言語を切り替えるだけでなく、話相手によって言語を変えることも当てはまります。例えば、父親がアメリカ人で母親が日本人の子供が、父親とは英語、母親とは日本語で会話することです。

「How was your day?」
「It was good, Dad.」
「そうだお母さん、買い物してきたよ」
「ありがとう」

このようなケースはバイリンガルの家庭でよく起こる現象と言われています。コードスイッチングには色々なパターンがあるので、次からは「なぜ起こるのか」について見ていきたいと思います。

コードスイッチングはなぜ起きるのか?

以前は「言語を使い分けられない」ということが主な理由だとされてきましたが、現在では様々な原因があることが解明されています。

主な原因を順番に見ていきたいと思います。

  • 相手にわかりやすく伝えるため
  • 周りにわからなくするため
  • 親密感・仲間意識を出すため
  • 語彙を忘れてしまったため
  • 無意識・無目的で行っている

相手にわかりやすく伝えるため

話したい内容をわかりやすく伝えるために、①相手が理解しやすい言語に切り替える、②特定の分野や状況によって言語を切り替える、などのような場合があります。

①相手が理解しやすいというのは、先ほど紹介したように、バイリンガルの子供が両親の母語で話すパターンが典型的な例で、移民や移住してきた家庭でよく起こるケースです。

②特定の分野によって言語を使い分けるというのは、例えば漫画やアニメに関する話題は日本語で話し、スポーツや映画に関する話題は英語で話す、という場合です。この状況は、翻訳や直訳するのが難しい場合によく起こります。例えば「お疲れ様です」は日本語特有の表現で、直訳が難しい言葉とも言われています。私の知り合いに「オツカレサマ」を良く使う外国人がいますが、日本語で言った方が意味が伝わりやすい(日本人っぽい)だそうです。

周りにわからなくするため

具体的には、内緒話をする場合です。先ほどとは逆の理由ですね。

例えば、バイリンガルの子供が、父親に聞かれたくない話を母親の母語で話す場合です。この場合は父親が母親の母語を知らないことが条件です。何だか悪口を言う場合に多そうです。

周りの人に話を聞かれないようにするのが目的なので、住んでいる地域とは違う言語で話すことも当てはまります。ただ、外国語で話すことで逆に目立ってしまうかもしれませんね。

親密感・仲間意識を出すため

例えば、母国語や出身地の方言で話すことです。親近感を出したり、安心感や懐かしさを得るなどの理由があります。

グループに属する共通の感覚は、グループアイデンティティ(group identity)や集団アイデンティティ(collective identity)とも呼ばれ、コードスイッチングの一因になっています。

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語彙を忘れてしまったため

このケースは、言いたい単語を忘れてしまったり、知らない単語を別の言語で補う場合です。

1950年代は「言語の使い分けができない」ということがコードスイッチングの主因でしたが、現在でもこの理由がなくなったわけではありません。一部の言語学者は「コードスイッチングは怠惰による現象だ」と批判する者もいます。なぜなら、きちんと言語を習得していれば、わざわざ言語を切り替える必要性なんてないからです。手厳しい意見ですね。

バイリンガル教育は魅力的ですが必ず成功するわけでもありません。言語学では言語喪失(language attrition)と言って、学んでしまった言語を忘れてしまう場合もあるからです。

無意識・無目的で行っている

ここまで様々な理由を挙げてきましたが、意味もなく言語を切り替える場合もあります。

例えば、方言を使うつもりがないのに自然に言ってしまった場合なんかは、無意識・無目的に使っていますよね。自分では気が付かないので、もしかしたらこのパターンが一番多いかもしれませんね。

もちろん、理由が複数存在する場合もあります。ここまで主な原因を目的別に紹介してきましたが、複合的な要因で発生する場合もあります。「原因はこれだ!」と決めるけることはできませんが、ただ、色々な理由を1つ1つ細分化して明確化することで、コードスイッチングの言語学的な理解に繋がると思います。

コードスイッチングは誰にでも起こる

コードスイッチングは多言語話者によく起こる現象ですが、誰にでも起こる現象です。

コードスイッチングから少し話が脱線してしまいますが、「言語の切り替え」と言っても、そもそも「言語」の定義が曖昧だからです。例えば、ユネスコでは言語(language)と方言(dialect)を区別していません。どちらもlanguageと呼んでいます。文化庁も一文ですがこのことについて言及しています。

参照:消滅の危機にある言語・方言 – 文化庁

これは単純な話で、もし日本の首都が今でも京都だったら、きっと標準語は江戸弁じゃなくて京都弁になっていたはずです。東京で使われている日本語は標準語と広く認知されていますが、国が規定しているわけではありませんし、言語学的にも「首都圏方言」や「新東京方言」という新方言に分類されているので、標準語も不変というわけではありません。

つまり何が言いたいのかというと、「言語」と「方言」の定義は区別できないくらい曖昧なので、「言語」の切り替えであるコードスイッチングの定義も曖昧になってしまう、ということです。

そのため、普通に会話している時に関西弁や東北弁がうっかり入ってしまうこともコードスイッチングと言えてしまうわけなので、誰にでも起こる現象という結論になるわけです。

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コードスイッチングの例

ここではコードスイッチングの例について、更に細かく見ていきたいと思います。コードスイッチングが起きる場所を分類すると、「文の中」「文の間」「文の後」の3つに分けることができます。

「文の中」で切り替える

最も良く起こるのが、1つの文の中に違う言語が混ざる場合です。

 I like tu manera de pensar.
君の考え方好きだよ。
 I got that información through John.
私はジョンを通して情報を入手した。

上の例文の青文字はスペイン語です。1つめの例文の「tu manera de pensar」は「君の考え方」のこと、2つめの例文の「información」は「情報」のことです。

informaciónは英語のinformationとスペルが似ていますが同じ語源を持つ同根語(cognate)です。ヨーロッパ言語には他にも同根語がたくさんあり、このような似ている単語ほど混ざりやすい傾向があるようです。

ヨーロッパの言語に同じ単語が多い3つの理由
ヨーロッパの言語には同じ語源を持っている同根語(cognate)がたくさんあります。今回は「ヨーロッ…

「文と文」を切り替える

文と文の間で言語を切り替える場合もあります。

 久しぶりだね。How have you been?
 You’ve done a great job. お疲れ様。

青文字は英語です。1つの文の中でごちゃ混ぜにするよりも、言語をはっきりと使い分けていますね。しっかりと区別していることから、目的があって切り替えてるイメージがします。

「文の後」に付け足す

文の後に感動詞や終助詞などを付け足す場合もあります。

 寝坊したの?Really?
 まじで。Oh my goodness!

咄嗟に別の言語になってしまった感じや、無意識・無目的で使っているイメージがします。何だかルー大柴さんが使う「ルー語」みたいですね。こちらは意識的・意図的っぽいですけどね。

似ている言葉にコードミキシング(code-mixing)がありますが、多くの場合同じ意味で使われています。

コードスイッチングとコードミキシングの違い
会話中に複数の言語を切り替えることをコードスイッチングと言いますが、似ている言葉に「コードミキシング…

その他にも英語とスペイン語が混ざった「スパングリッシュ」や、ポルトガル語とスペイン語が混ざった「ポルトニョール」も、コードスイッチングの1つとみなされることがあります。

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コードスイッチングではない例

敬語とタメ口を切り替えることは「スタイルシフト」と呼ばれています。

丁寧語や普通体の切り替えは、話し方(スタイル)を変えているだけなので、言語(コード)を切り替えているわけではありません。英語ではStyle-shiftingと呼ぶようです。例を挙げると以下のような感じです。

 美味しかったね。また誘ってください

スタイルシフトはあんまり仲良くない人との会話で良く出てきそうですね。驚いた時や相づちは「そうなんだ」とタメ口を使ってみるものの、そこまで仲良くないのでやっぱり敬語に戻ってしまう、みたいな。

カタカナ語や外来語もコードスイッチングではないとされています。

外来語も元をたどれば別の言語ですが、現在では日本語として定着している(日本語化している)ので、言語の切り替えではないとする見解が一般的のようです。

日本語になった外来語の語源・由来【まとめ】
この記事は「日本語になった外来語シリーズ」のまとめ記事です。※各ページに以下のリンクを設置しています…

まとめ

今回は、「コードスイッチングの原因・特徴・例」についてまとめました。

コードスイッチングとは、2つ以上の言語や方言を混ぜて使うことです。バイリンガルマルチリンガルによく起こる現象ですが、標準語と方言の切り替えることも含まれるので、誰にでも起こり得る身近な現象です。以前は「きちんと言語を区別できない」ということが主な原因だとされてきましたが、現在では様々な原因が明らかになっています。

  • 相手にわかりやすく伝えるため
  • 周りにわからなくするため
  • 親密感・仲間意識を出すため
  • 語彙を忘れてしまったため
  • 無意識・無目的で行っている

理由をいくつか紹介しましたが、1つだけではなく複数の理由が重複する場合もあります。皆さんも、それぞれの理由で何かしらコードスイッチングをしているはずです。

ごがくねこ
ごがくねこ

最後までお読みいただき有難うございました。

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