共通の起源を持っている単語は「同根語(cognate)」と呼ばれ、特にヨーロッパの言語で多く見られます。今回は同根語の意味と例について解説します。
同根語とは
同根語(cognate)とは、同じ語源を持つ単語のことです。
英語では「同族の、同起源の」を意味するcognateと言い、ラテン語の「血縁者」を意味するcognatusに由来します。coは「一緒」、gnatusは「生まれた」という意味があります。日本語では「同じ根源を持つ語」という意味で同根語(どうこんご)と呼んでいます。
「一緒の生まれ」という語源の通り、共通の祖先を持っている言語間で多くみられます。例えば、6~9世紀頃に俗ラテン語から誕生したイタリア語・フランス語・スペイン語・ポルトガル語などのロマンス諸語(Romance languages)は、ラテン語に由来する同根語を多く持っています。
例をあげると、「人気のある、大衆の」を意味する以下の語はどれも同根語です。
- イタリア語 popolare
- スペイン語 popular
- フランス語 populaire
- ポルトガル語 popular
- ルーマニア語 popular
参照:popularis – Wiktionary
どれもとても似ていますね。上の単語はどれもラテン語のpopularis(人のため、一般的な)やpopulus(人々)という言葉に由来しています。ロマンス諸語は同根語が多いので、語彙の共通度(lexical similarity)や相互理解可能性(mutual intelligibility)が非常に高い傾向があります。
英語のpopularやpeopleも同根語です。英語はロマンス諸語ではありませんが、1066年のノルマン・コンクエストによって、1万語近いフランス語の単語が英語に取り入れられたからです。このように、同根語は他の言語から借用されるケースもあります。
参照 英語の歴史を簡単に振り返る
参照 英語の語彙に影響を与えた外国語
もっとも、ヨーロッパの言語を俯瞰してみると、英語もフランス語もドイツ語もロシア語もインド・ヨーロッパ語族(Indo-European languages)に属しているので、大家族のような関係があります。地続きなので、言語が互いに交じり合う言語接触(language contact)の機会も多くなっています。
日本語は他の言語との関係があまり明確になっていない孤立言語(language isolate)と言われているので、同根語とは少しほど遠い関係かもしれません。最近では、日本語を琉球語と同じ日琉語族(Japonic languages)に分類する研究もありますが、日本列島で話されている言語だけで構成されているグループなので、ヨーロッパの言語ほど関係は広くありません。
そこで今回はヨーロッパの言語を例として、同根語について見ていきたいと思います。
同根語の例
英語のcivil
英語のcivilは「市民の」を意味する言葉ですが、語源をさかのぼるとラテン語のcivilis(社会に関する、市民の)に由来し、14~15世紀頃に古フランス語のcivilを経由して英語になりました。
英語の語彙の半分以上はラテン語やフランス語に由来しています。これはラテン語の単語が古フランス語を経由して英語に伝わったことも一因です(参照:英語の語彙に影響を与えた外国語)。ラテン語のcivilisは、英語やフランス語だけでなく他のヨーロッパ言語にも継承されています。
- 英語 civil
- イタリア語 civile
- スペイン語 civil
- フランス語 civil
- デンマーク語 civil
- ポルトガル語 civil, cível
同根語の意味やスペルは必ずしも同じとは限りませんが多くの場合で類似しています。
派生語のcity(都市)やcitizen(市民)も同じくラテン語に由来し、ロマンス諸語を中心に同根語が使われています。派生語を含めると本当に多くの単語が共通していることになりますね。
英語のhour
英語のhour(時間)は、civilと同じく古フランス語のhoreを経由して英語に伝わりましたが、語源を遡るとラテン語のhoraやギリシャ語のhōraにまで辿り着きます。そのため、civil以上に様々な言語に引き継がれています。
- ゲルマン語派
英語 hour
ドイツ語 Uhr
オランダ語 uur
デンマーク語 ur - イタリック語派
イタリア語 ora
スペイン語 hora
フランス語 heure
ポルトガル語 hora, ora
属している言語グループによってスペルに特徴があるようです。例えば、英語・ドイツ語・オランダ語・デンマーク語などのゲルマン語派(Germanic languages)は、語頭の「h」が省かれて「u」が使われている傾向があります。英語にhがあるのは、古フランス語(hore)から伝わった名残かもしれません。
同根語は原型を保ちつつも、それぞれの言語の特徴(発音や綴りなど)を反映しながら多彩に変化しているようです。
英語のhistoryとstory
history(歴史)とstory(物語)は同じ語源を持つ単語です。同じ言語の中にある同根語のうち、意味や形が違う単語は二重語(doublet)と呼ばれています。
historyとstoryも12世紀頃に古フランス語から伝わりましたが、15世紀頃まで区別されずに同じ意味で使われていました。中英語(Middle English)と呼ばれる時代です。storyが「嘘」の婉曲表現として使われるようになったのは1690年代だと言われています。
語源を遡ると、historyとstoryも、古フランス語のestoire, estorie(物語、歴史、年代記)を経由して英語に伝わり、ラテン語のhistoria(過去の出来事、歴史、物語)やギリシャ語のhistoria(研究でわかった知識、調査、物語)に由来します。
このように、二重語は英語の語彙の豊富さの一因にもなっています(参照)。ラテン語やギリシャ語のhistoriaはヨーロッパの広範囲に波及し、現在でも継承されています。
- ゲルマン語派
英語 history, story
ドイツ語 Historie
オランダ語 historie
デンマーク語 historie
ノルウェー語 historie - イタリック語派
イタリア語 storia
スペイン語 historia
フランス語 histoire
ポルトガル語 história
ルーマニア語 istorie - スラブ語派
ポーランド語 historia
チェコ語 historie - ウラル語派
ハンガリー語 história
ヨーロッパ言語で「歴史、ストーリー」を意味する単語の殆どは、このラテン語やギリシャ語のhistoriaが語源になっているようです。ヨーロッパでは日本と比べてマルチリンガルが多いのは、同根語が多いことも一因と言えますね。
その他の同根語については別の記事でもまとめています。
偽の同根語と空似言葉
同根語と似ている概念に「偽の同根語」と「空似言葉」があるので少しだけ触れたいと思います。
偽の同根語(false cognate)とは、形や意味が似ているけど語源が異なる言葉のことです。「同根語に見えるけど実は同根語ではない」ということから、英語ではfalse cognate(偽の同根語)と呼ばれています。日本語では、欺瞞的同根語(ぎまんてきどうこんご)とも呼ばれています。
空似言葉(false friend)とは、別の言語において、形が似ているけど意味が違う言葉のことです。「似ていると思ったのに意味が違う!友達じゃない(?)」ということで、英語ではfalse friend(偽の友達)と呼ばれています。スペルが似ているということで、語源が同じ場合もあります。
意味 | 形態 | 語源 | |
---|---|---|---|
同根語 | △ | △ | ○ |
偽の同根語 | ○ | ○ | × |
空似言葉 | × | ○ | △ |
△はどちらの可能性もあります。
偽の同根語の例
偽の同根語の代表的な例は、英語の「much」とスペイン語の「mucho」です。
2つとも「とても、非常に、多くの」を意味する形容詞と副詞で、意味・スペル・品詞はどれも似ています。ただ、muchはゲルマン語由来、muchoはラテン語由来の言葉なので実は語源が異なります。たくさんの
- 英語: much ← ゲルマン祖語: mekilaz (多くの) ← 印欧祖語: meg (凄い)
- 西語: mucho ← ラテン語: multus (多くの) ← 印欧祖語: ml̥tos (崩れた)
空似言葉の例
空似言葉の代表的な例は、英語の「soap」とスペイン語の「sopa」です。
英語のsoapは「石鹸」を意味しますが、スペイン語のsopaは「スープ」を意味する単語です。形が似ているけど意味が違う、ということで空似言葉にあてはまります。ちなみに、スペイン語のsopa(スープ)は英語のsoup(スープ)との同根語です。
英語 | 西語 | 関係 |
---|---|---|
soap(石鹸) | sopa(スープ) | 空似言葉 |
soup(スープ) | sopa(スープ) | 同根語 |
soap(石鹸) | jabón(石鹸) | 訳語 |
空似言葉の詳細や、英語と他の言語(ドイツ語、フランス語、イタリア語)の空似言葉の例については、別の記事でまとめています。
同根語の空似言葉
同根語と空似言葉は重複する場合もあります。同根語に必須なのは「同じ語源」ですが、空似言葉に必須なのは「違う意味、似ているスペル」で、相反しないからです。
同根語の空似言葉の代表的な例が(またスペイン語ですが)、英語の「exit」とスペイン語の「éxito」です。
英単語のexitは「出口」を意味しますが、スペイン語の「éxito」は成功(英:success)を意味する単語です。どちらもラテン語のexitus(出発、外出、結論、終了、結果)に由来する言葉なので同根語ですが、形が似ているけど意味が違うので空似言葉でもあります。
英語 | 西語 | 関係 |
---|---|---|
exit(出口) | éxito(成功) | 同根語の空似言葉 |
exit(出口) | salida(出口) | 訳語 |
success(成功) | éxito(成功) | 訳語 |
ちなみにスペイン語で「出口」はsalidaと言います。
まとめ
今回は「同根語(cognate)」の定義や例について解説しました。
同根語とは、同じ語源を持つ単語のことで、ロマンス諸語など共通の祖先を持っている言語間で多くみられます。同根語が多い言語間では「語彙の共通度」や「相互理解可能性」が高くなる傾向があります。
似ている概念に「偽の同根語(false cognate)」や「空似言葉(false friend)」がありますが、それぞれの違いをまとめると、以下のようになります。
- 同根語:同じ語源を持つ単語。意味と形は似ていることが多い。
- 偽の同根語:意味と形が似ているが、異なる語源を持つ単語。
- 空似言葉:形は似ているが、意味が違う単語。語源が同じ場合もある。