英語とスペイン語を混ぜたスパングリッシュとは?話者・特徴・例を解説

自由の女神像

アメリカのテレビ番組を見ていると、ヒスパニックの人が英語とスペイン語を混ぜて話しているのをよく見かけます。この言葉には名前があり、スパングリッシュ(Spanglish)と呼ばれています。スパングリッシュの話者数は年々増加していているので、近年特に注目を集めています。

そこで今回はスパングリッシュの定義・名前の由来・話者・特徴・例についてご紹介したいと思います。

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【定義】スパングリッシュとは?

スパングリッシュ(Spanglish)とは、主にアメリカのヒスパニックによって話されている、英語とスペイン語の語彙や文法が混ざった言語や話し方のことです。

「新しい言語」と言えるのかについては議論が多く、例えば、標準的なスペイン語を規定しているスペイン王立アカデミー(Real Academia Española)では、スパングリッシュを「言語」ではなく「話し方(modalidad del habla」と定義しています。

参照 “espanglish” Real Academia Española

ただ、言語学的に一貫した定義があるわけではありません。

複数の言語が融合して作られたハイブリッド言語(hybrid language)や混合言語(mixed language)と捉える言語学者もいれば、ただの英語の方言に過ぎないと捉える学者もいます。更には、英語とスペイン語を切り替えただけのコードスイッチング(code-switching)に過ぎないとする見方もあり、十人十色です。

ごがくねこ
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スパングリッシュを「スペイン語混ざりの英語」というスラングとして使われることもあるようです。

名前の由来

Spanglish(スパングリッシュ)という言葉は、英語で「スペイン語」を意味するSpanishと「英語」を意味するEnglishを組み合わせた造語です。

Spanish + English = Spanglish

最初にスパングリッシュと呼び始めたのはプエルトリコの作家であるサルバドール・ティオ(Salvador Tió)という人物です。

プエルトリコといえば米国領ですが、16世紀頃~19世紀後半まではスペイン領だったため、300年近くはスペイン語が話されていました。米西戦争によって1898年に米国領になってからは英語が導入され、多くの英単語が流入しましたが、現在でも人口の95%はスペイン語を話しています。

サルバドール・ティオは英語の浸透をあまり快く思っていなかったようです。彼は1940年代頃、スペイン語を話すのをやめて英語を選択した人への批判として「Espanglish(エスパングリッシュ)」という言葉を使い始めました。Espanglishは、スペイン語で「スペイン語」を意味する「Español」と、英語の「English」を組み合わせた合成語です。

その後、スパングリッシュは米国内で話されていることもあり、サルバドール・ティオが使い始めた「Espanglish」ではなく、英訳した「Spanglish」が使われるようになり、一般的に定着しました。

ごがくねこ
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スパングリッシュは元々スペイン語が母語でなくなってしまうのを憂う気持ちから使われ始めた言葉なんですね。

話者と地域

スパングリッシュの話者の多くは、アメリカに住むヒスパニック系の人々や、英語とスペイン語のバイリンガルです。

米国国勢調査局の2019年の調査によると、スペイン語を話すヒスパニックの人口は約6000万人で米国の全人口(約3億2800万人)の約18%を占めています。2000年は約3500万人、2010年は約5000万人なので年々右肩上がりですね。

  • 2019年 6048万人
  • 2015年 5649万人
  • 2010年 5074万人
  • 2000年 3530万人

出典:“Hispanic or Latino Origin by Race” United States Census Bureau

日本の人口(約1億2600万人)の半分はヒスパニック、と考えるとかなりの数ですね。現在では白人に次ぐ2番目に大きいエスニック・グループにもなっています。

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ヒスパニックは、アメリカ南部とアメリカとメキシコの国境付近に多く住んでいます。具体的には、カリフォルニア州南部、ニューメキシコ州、テキサス州、フロリダ州、マイアミ、ニューヨーク市、プエルトリコなどです。

下の図は2010年の米国国勢調査局によるヒスパニックの割合です。

ヒスパニックの割合

出典:United States Census Bureau, Public domain, via Wikimedia Commons

図はWikimediaからお借りしました。青く濃い色になるほどヒスパニックの割合が多くなります。南部には75~99%の地区がいくつもありますね。

ヒスパニックの60%以上はチカーノ(Chicano)と呼ばれるメキシコ系アメリカ人です。チカーノは最も急成長しているエスニック・グループの1つで、新しい移住地(故郷)として特にアメリカ西部・南カリフォルニアに定住しています。

ヒスパニックの一般的な定義は「米国在住のラテンアメリカにルーツを持つ人」のことですが、最終的な調査では「You are if you say so.」、つまり「あなたがそう言うのならそう」という具合にそれぞれの自己アイデンティティに委ねられています。

余談ですが、大谷翔平選手が所属するロサンゼルス・エンゼルスのオナーであるアルトゥーロ・モレノ(Arturo Moreno)氏も、メキシコ系アメリカ人のヒスパニックです。本拠地はカリフォルニア南部のアナハイムですが、球場ではよくスペイン語の曲が流れています。

なぜ定義が曖昧なのか

スパングリッシュには決まった構文・文法はなく、統一した形はありません。

何故なら、米国内で話されていると言っても、様々な地域・コミュニティ・集団で話されているので、決まった話し方があるわけではないからです。

スペイン語は世界の21か国の公用語になっているだけでなく地域によっても多彩な方言を持ちます。そのため「英語×スペイン語」の形態も1つではなく、地域やコミュニティが異なればお互いに理解できるとは限りません。

例えば、マイアミのキューバ系アメリカ人が話すスパングリッシュは、キューボニックス(Cubonics)という名前で呼ばれ、区別化されています。

スパングリッシュには文法書がないことも一因かもしれません。

スペイン語の場合、スペイン王立アカデミーが標準的なスペイン語を規定していますし、1492年に出版されたアントニオ・デ・ネブリハの『カスティリャ文法』は、元々ラテン語だったスペイン語の立ち位置を確立させた出来事とも言われています。

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ごがくねこ
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スパングリッシュもいつか文法書が誕生するかもしれませんね。

【例】スパングリッシュの例

コードスイッチングとして

コードスイッチングとは、会話の中に2種類以上の言語を切り替えることです。

I don’t have mucho tiempo.
私はあまり時間がない。
I have an appointment in Tokyo, así que tengo que irme.
 東京で予約があるので行かなくちゃ。

上の例文は英語とスペイン語の混合文で、青文字はスペイン語です。mucho tiempoは英語のmuch time、así que tengo que irmeは英語のso I have to goにあたる言葉です。

更に細かく、動詞や単語だけを借用する場合もあります。

hacer click
クリックする
mandar un e-mail
メールを送る

クリックやメールは日本語にとっても外来語なので、日本語でも同じ使い方をしていますよね。「アポイントを取る、バッテリーが上がった、コンロを付ける」などいくらでも作れそうですね。

コードスイッチング(code switching)の詳細は別の記事でまとめています。

コードスイッチングはなぜ起きるのか?原因・特徴・例について
会話中に他の言語が混ざってしまうことを、言語学ではコードスイッチングといいます。バイリンガルやマルチ…

新しく作られた単語

英単語をスペイン語風の発音にしたり、2つの言語を混ぜて新しく造語したりする場合もあります。

例えば、市場は英語ではmarket(マーケット)、スペイン語ではmercado(メルカド)と言いますが、スパングリッシュでは両方をミックスしたmarqueta(マルケータ)という単語も使われています。

スパングリッシュの単語の例をいくつかまとめてみました。

英語 スペイン語 スパングリッシュ
appointment cita apointment
brakes los frenos los brakes
disorder trastorno desorden
chat conversar chatear
check revisar checar, chequear
click presionar cliquear
forget olvidar forgetear
have lunch almorzar lonchar
see ver siir
test probar testear
truck camión troca

chatear(チャットする)やchequear(チェックする)など、普通のスペイン語でも使う単語もあります。

forgetear(忘れる)やtestear(テストする)など、英単語の語尾に「er」や「ar」を付け足して動詞化することもあります。これは日本語の「ググる」「サボる」「バグる」などのように、「る」を追加して新しい動詞を作るのと同じですね。

別の記事でまとめた「英語とスペイン語の似ている単語」にも、英単語の語尾に「ar」や「ir」を追加するとスペイン語になる単語をまとめています。

スペイン語と英語の似ている動詞一覧
このシリーズでは、「知っている英単語でスペイン語を覚えよう!」というコンセプトをもとに、スペイン語と…

さて、checar(クリックする)のように、英単語(この場合はcheck)から借用されるケースもあります。この場合は日本語における外来語と同じイメージです。

ごがくねこ
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こうしてみると色々な言語を取り入れている日本語と似ている点も多いですね。

スパングリッシュを扱った作品

スパングリッシュ音楽も近年増加していて、ある調査によると、スパングリッシュの歌詞が含まれていたBillboard Hot 100の楽曲は、1980年代では1.2%でしたが、2000年代では6.2%にまで増加したそうです。

スペイン語圏出身の歌手は世界的に有名な人が多いですよね。

ぱっと思いつく限りでも、シャキーラ、リッキー・マーティン、エンリケ・イグレシアスなど。プエルトリコ出身のルイス・フォンシの『Despacito』は、2017年8月~2020年11月までは、史上最も視聴された曲でした。歌詞は殆どスペイン語ですが、ジャスティン・ビーバーとのコラボでは英語も混ざっています。

スパングリッシュという言葉は、映画『スパングリッシュ 太陽の国から来たママのこと』でも使われています。2004年(日本は2006年)に公開されたアメリカ映画で、英題は『Spanglish』です。映画の内容は言語のスパングリッシュについてではありませんが、ヒスパニックの日常を垣間見ることができます。

まとめ

今回は、スパングリッシュの定義・名前の由来・話者・特徴・例などについてご紹介しました。

スパングリッシュとは、英語とスペイン語の語彙や文法が混ざった言語・話し方のことで、主に米国のヒスパニックによって話されています。

名前の由来は、英語のSpanish(スペイン語)とEnglish(英語)が合わさったSpanglishという言葉に由来しています。

スパングリッシュが話されている地域・コミュニティ・集団が様々なこともあり、統一した文法・規則・話し方はありません。言語学的な位置付けも、①混合言語、②英語の方言、③コードスイッチングなどで議論が分かれていますが、スペイン王立アカデミーではスパングリッシュを「話し方」と定義しています。

ごがくねこ
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近年では、話者数の増加に加え、英語とスペイン語を混ぜた音楽なども増加傾向にあるので、今後さらに注目を集めるのではと思います。

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