知り合いが話すスペイン語は理解できるのに、知らない人だと聞き取れない、なんてことありますよね。原因は様々ありますが、それにはスペイン語の特性が大きく関係しています。今回は、①話す速度、②方言、③動詞の活用形、という3つの視点から、「スペイン語のリスニングが難しい理由と対処法」についてご紹介します。
スペイン語は話すスピードが速い
1つ目の理由は、スペイン語は話すスピードが速いことです。
2011年にフランスのリヨン大学の研究によると、調査対象となった7言語の中で、スペイン語は2番目に速い言語だったそうです。アメリカのニュース雑誌Timeのアーカイブに過去記事が残っています。
参照:“Slow Down! Why Some Languages Sound So Fast” TIME
この調査は「1秒間に音節がどのくらい使われているのか」を基準に測定しています。つまり、速い言語とは「1秒間の音節数が多い言語」のことです。この研究によると、音節が多い順に、日本語(7.84)、スペイン語(7.82)、フランス語(7.18)、イタリア語(6.99)、英語(6.19)、ドイツ語(5.97)、北京語(5.18)でした。
スペイン語は日本語に次いで2番目に音節が多い言語ですが、音節数は日本語とほぼ同じです。日本語が1番なのは意外ですよね。ネイティブにとってはそれが当たり前のスピードなので、速い言語だという実感はあまりないはずです。これは、スペイン語母語話者にとっても同じことが言えるかもしれません。
なぜ音節が多いのかというと、「音に含まれる情報量が少ない」ことが一因だと考えられます。というのも、外国語を聞いていると、普段聞きなれないアクセントや発音って結構ありますよね。日本語とスペイン語は母音の数が5個しかありませんが、母音が5つ以上ある言語はたくさんあります。例えば、英語の母音は26個、中国語は36個もあります(諸説あり)。
もちろん話すスピードには個人差がありますが、言語自体の特性は看過できない要因です。
対処法①
1つ目の対処法は、ゆっくり話してもらうことです。
日本語も比較的に速い言語ですが、私たちが速く話している自覚がないように、スペイン語話者にとっても速く話している自覚はないと思います。海外では言いたいことははっきりと伝える必要があります。スペイン語で「ゆっくり話してください」と伝えるには以下のように伝えます。
Más despacio, por favor.
マス デスパシオ ポル ファボル
Másは「もっと」、despacioは「ゆっくり」、por favorは「お願いします」という意味があります。他にも丁寧な表現として、以下のような言い方もあります。
¿Puede hablar más despacio, por favor?
(プエデ アブラル マス デスパシオ ポル ファボル)
¿Podría hablar más despacio, por favor?
(ポドリア アブラル マス デスパシオ ポル ファボル)
puede/podríaは「~できます」、hablarは「話す」という意味があります。こちらの方が少し長い表現ですが、丁寧な言い方なので私は好みです。「スペイン語でお願いするフレーズ」は他の記事でもまとめています。
動画や映画の場合は再生速度を下げるのも1つの方法です。
最近では多くの動画サイト(YouTubeやNetflixなど)で再生速度の調整が簡単にできます。速度調整は早送りするために使うことが多いですが、外国語をゆっくりと聞きたい場合にも役立ちます。
スペイン語の種類は多種多様
2つ目の理由は、スペイン語には国や地域によって多彩なバリエーションがあることです。
スペイン語は世界の21カ国の公用語になっている超グローバル言語です。総話者数も5億人以上で、これは世界で4番目に多い数です。日本語にも方言がありますが、スペイン語は国単位で話し方や使われる単語が異なります。
特に異なるのがスペインと中南米(カリブ・ラテンアメリカ)のスペイン語です。
例えば、南米では「君たち」を意味するvosotrosは使いません。私が住んでいたペルーやボリビアなどのアンデス山脈付近では、先住民言語のケチュア語やアイマラ語が混ざったスペイン語も話されています。この意味はなんだろうなと調べた単語がケチュア語だったこともありました。例えば、アルパカの語源はスペイン語ではなくケチュア語に由来しています。他にも、パラグアイでは、スペイン語とグアラニー語が混ざったジョパラ(Jopara)という混合言語が、国民の半分以上で話されています。このようにスペイン語といっても多種多様なバリエーションがあります。
関連:南米の2言語社会(ダイグロシア)の現状と言語政策について
関連:スペイン語に由来する外来語|動物
普段使われる単語が違う場合もあります。「車」を意味する単語だけでも、auto, coche, carroの3種類あります。「運転する」という動詞も、スペインではconducirがよく使われますが、南米ではmanejarを使うのが一般的です。
日本語にも方言があるのと同じように、スペイン語にも使われる単語・表現・発音・イントネーションなどに多彩なバリエーションがあります。
対処法
色々な国のスペイン語を聞き比べることが大切です。
遅く話してもらうことはお願いできますが、「メキシコ風のスペイン語で話してね」とは頼みづらいと思います。関東の人に「関西弁で話して!」とお願いするのと同じイメージです。こればかりは自分の耳を慣らすしかありません。別の言語というわけではないので、聞き比べしていくうちに、苦手なスペイン語が分かってくると思います。
例えば、私は南米で育ったのでスペインのスペイン語が苦手です。自分が苦手なスペイン語が分かれば、後はそのスペイン語ではどのような表現が使われているのかを調べて、重点的に聞いてみてください。使われやすい単語や表現が明確になれば、覚えることも必要最小限になります。
会話の場合なら簡単なフレーズを使うのも1つの方法です。スペイン語は案外簡単なフレーズでも通じることがあるからです。
動詞の活用形が多い
3つ目の理由は、スペイン語は動詞の活用が多いことです。
スペイン語には1つの動詞だけでも100近く(6人称×16時制)活用形があります。それに加えて、不規則活用の動詞も数百以上あると言われています。動詞の活用はスペイン語で一番難しい点とも言えるかもしれません。
対処法
1つ目の対処法は、語頭や文脈で意味を推測することです。
規則活用の動詞の場合、変化するのは主に語尾なので、語頭である程度意味を予測できることがあります。例えば、comiencen、comenzarán、comenzaríamos、という単語があったとします。どれかが知らない単語だったとしても、どれも原形のcomenzar(始める)の面影は残っています。語尾からは主語や時制が分かります。「mos」なら「私たち」のことを指しますし、3つ目の単語のcomenzaríamosは、「ría」が使われているので「直説法の過去未来」かなと予測できるかもしれません。
「接頭辞」を理解することも有用です。
例えば、「anti-」から始まる単語は「反対・否定」、「ante-」から始まる単語は「前・先」などの意味があります。多くの接頭辞は語尾と違ってそれほど変化しないので、まず接頭辞の大体の意味を把握してしまうのもより良い方法だと思います。
よく使われる単語から覚えるのも1つの方法です。
時間は有限なので語学も優先順位が大切です。「スペイン語で最も頻繁に使われる単語」については以下の記事などでまとめているので宜しければ参考にしてください。
無理に全部を理解するのではなく、割り切ってしまうのも1つの対処法です。
何故なら、活用の変化に拘りすぎて文全体の意味を見失ってしまっては「木を見て森を見ず」です。先ほどのcomiencen、comenzarán、comenzaríamosの例も、「comenzar」の意味は大抵は「始める」なので、「何かが始まるんだな」ということさえ分かれば大意は見失わないと思います。
スペイン語の動詞の活用形は一生の付き合いといっても過言ではないと思います。そのため、少しずつ理解していきたいですね。
まとめ
今回は「スペイン語のリスニングが難しいとされる原因と対処法」についてまとめてみました。
原因には以下の3つが挙げられます。
- 話すスピードが速い(音節が多い)
- 国や地域で多彩な形態が存在する
- 動詞の活用形・不規則動詞が多い
対処法には以下の3つが考えられます。
- ゆっくりと話してもらう。再生速度を遅くする
- 1つの国だけでなく色々なスペイン語を聞き比べる
- 語頭や文脈で意味を推測する。全部理解しない
今回のまとめが皆さんのリスニングの向上に繋がれば幸いです。