会話中に複数の言語を切り替えることをコードスイッチングと言いますが、似ている言葉に「コードミキシング」というものがあります。それぞれの違いが気になったので、今回はコードスイッチングとコードミキシングの違いなどについて簡単にまとめてみました。
コードミキシングとは
コードミキシング(code-mixing)とは、会話中に2つ以上の言語や方言を混ぜ合わせることです。
コード(code)とは「言語」のこと、ミキシング(mixing)とは「混ざり合うこと」です。細かな定義は言語学者によって異なりますが、コードスイッチング(code-switching)とほぼ同じ意味で使われることが多いようです。
ただ、2つを区別する場合もあります。
コードミキシングとコードスイッチングの違い
一部の研究では、コードミキシングは同じ文中(intra-sentential)で接辞・語句・節などが混ざり合うこと、コードスイッチングは会話中や文間(inter-sentential)で語句・文を切り替えること、と区別しています。
- コードミキシング :文中での接辞・語句・節の混合
- コードスイッチング:文間での語句・文の切り替え
定義の違いの根拠は、mixing(混合)とswitching(切り替え)という言葉の違いです。
つまり、mixingの方が、より繊細(subtler)で入り組んでいますが、switchingの方が、より原形が保たれているからです。更に、mixingはより高頻度、switchingはより間欠的という特徴も言及されています。
- mixing :繊細、交錯、高頻度
- switching:原型が保たれ、間欠的
日本語でも、「切り替え」というと、それぞれ別のものが入れ替わるイメージですが、「混ざり合う」というと、より融合しているイメージですよね。もちろん「どのくらい」混ざり合っているのかの「程度」にもよりますが。
以上のことから、コードスイッチングが頻繁に行われることをコードミキシングと定義する場合もあるそうです。
ただ「mixing」の解釈の仕方は多様で、コードスイッチングや借用語など「言語が混ざり合う現象全て」を包含してコードミキシングと呼ぶ場合もあるそうです。
「mixing」という言葉を狭く捉えるか、広く捉えるかで、意味は大分変ってしまうということですね。
コードミキシングとコードスイッチングの違いをまとめると以下のようになります。解釈の仕方は言語学者によって異なるようです。
- コードミキシングは、コードスイッチングとほぼ同じ意味。
- コードミキシングは、コードスイッチングより細かく、より頻繁に起こる。
- コードミキシングは、コードスイッチングも含めて、言語が混ざり合う現象全てを指す。
コードミキシングはなぜ起こるのか
会話中に言語が混ざり合う要因は、コードスイッチングとほとんど同じです。
意味を強調・明確化するために意図的に使う場合もあれば、無意識で行う場合もあります。一般的に会話で起こる現象で、ライティングでは文字に意識を集中するので、それほど起こらないとされています。
また、一部の言語学者は、異なる言語の区別が出来ない怠惰による現象だと批判する人もいます。きちんと言語学習しているのなら、言語を混ぜる必要はないからです。ごもっともかもしれません。例えば、実際に単語やフレーズを忘れてしまった場合に、他の言語で代用するケースがあります。
訳 添付ファイルをご覧下さい。
このような文章は、普段あまり使わない単語を使う際に起こるケースです。ちなみに添付ファイルは英語ではattached fileです。またテーマによっては違う言語の方が説明しやすい場合もあります。例えば漫画やアニメの用語は日本語で、経済やスポーツの用語は英語を使うこともあります。
コードミキシングで何が起こるのか
コードミキシングが継続的に行われた結果、言語が融合して新しい混合言語(mixed language)が作られる場合があります。
グリークリッシュ Greeklish
グリークリッシュはギリシャ語と英語の混成語で、インターネットでギリシャ語の文字コードがまだ開発されていなかった時代には、バイリンガルに限らず一般的に用いられていました。現在では使用者は減少しているそうです。
ヒングリッシュ Hinglish
ヒングリッシュはヒンドゥー語と英語の混成語です。インド英語(Indian English)の変種とされ、英語が共通語であるインドにおいてインターネットや若者の間で広く使用されています。インドでは純粋な英語話者よりヒングリッシュの方が増加しているそうです。
マングリッシュ Manglish
マングリッシュはマレーシア語と英語の合成語で、マレーシア英語(Malaysian English)とは区別されています。ピジン・クレオール言語の特徴を持ち、例えば使用される語彙数が限定される代わりに、多くの語彙に複数の機能や意味が備わっています。
ポーグリッシュ Porglish
ポーグリッシュはポルトガル語と英語の合成語で、米国のポルトガル系コミュニティやルゾフォニアなどで話されています。英語とスペイン語が混ざったスパングリッシュと似た概念です。
コードミキシングの例
コードミキシングの例をいくつかまとめてみました。
文中に混合する
よく起こるのが文の中で他の言語が混ざり込む場合です。
例 Let’s go to the Eigakan.
訳 映画館に行こうよ。
例 I had ramen at a Yatai in Hakata.
訳 博多の屋台でラーメンを食べた。
日本語母語話者なら日本語の単語、スペイン語母語話者ならスペイン語の単語が出てくるように、最も早く頭に浮かんだコードが選択されます。
同根語が混在する
他にも同根語(cognate)が混在する場合もあります。
同根語は同じ語源の言葉のことで、英語などのヨーロッパの言語には発音やスペルが似ている単語が沢山あります。
下はスペイン語と英語の例です。下のような英語とスペイン語が混ざった話し方は「スパングリッシュ」とも呼ばれています。
例 It was good to have this conversación.
訳 お話しできて良かったです。
例 Did you get información from her?
訳 彼女から何か情報は?
例 Come and participate in the celebración.
訳 お祝いに参加してね。
スペイン語のconversaciónは英語ではconversation、informaciónはinformation、celebraciónはcelebrationです。発音は異なりますが、スペルは語尾の「-tion」と「-ción」以外はほとんど同じですね。
スペイン語と英語には他にも似ている同根語がたくさんあり、多言語学習者にとっても、code-switchingやcode-mixingの可能性は常駐しています。
外来語として
外来語がコードミキシングなのかについては賛否あるようです。それは日本語として「定着」しているので、「切り替え」ではないからです。
例 I’d like a bento-bako.
訳 弁当箱が欲しい。
お弁当箱の英訳はlunch boxですが、最近では日本語のbento-bakoも良く耳にします。日本のお弁当の文化が海外でも広まったことや、イメージがより伝わりやすいことが要因のようです。
その他にも、kawaii(かわいい)やmottainai(もったいない)などの日本語もよく聞く単語です。
まとめ
今回はコードミキシングとコードスイッチングの違いなどについてまとめました。
コードミキシングとコードスイッチングの違いをまとめると以下のようになります。
- コードミキシングは、コードスイッチングとほぼ同じ意味。
- コードミキシングは、コードスイッチングより細かく、より頻繁に起こる。
- コードミキシングは、コードスイッチングも含めて、言語が混ざり合う現象全てを指す。
同じ意味で使う場合もあれば、区別する場合もあり、解釈の仕方は言語学者によって異なります。