日本人は英語が苦手だと良く言われますが、アメリカ外交官養成局によれば、英語ネイティブにとっても日本語は難しい言語なのだそうです。そうだとするなら、日本人が英語を苦手だと感じるのも当然かもしれませんね。
そこで今回は「英語ネイティブにとって簡単な言語と難しい言語」についてご紹介します。
英語を既に習得している方にとっては、第二言語・第三言語を選択する参考にもなるかもしれません。英語と似ている言語なら習得しやすいですからね。
英語ネイティブに対する言語の難易度と習得時間
アメリカ外交官養成局(Foreign Service Institute)は、1947年に設立された米国国務省の所属機関で、政府職員や外交官などを対象とした外交訓練を実施しています。
1947年に設立されてから約70年間、アメリカ外交官が「専門的な作業能力(Professional Working Proficiency)」を到達するまでに必要だった時間を収集して、言語の難易度を以下の4つのカテゴリーに分類しています。
英語ネイティブに対する言語の難易度と習得時間
カテゴリー1 24週間(600-750時間) | |
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イタリア語 スペイン語 フランス語(30) ポルトガル語 ルーマニア語 |
オランダ語 デンマーク語 ノルウェー語 スウェーデン語 |
カテゴリー2 36週間(900時間) | |
ドイツ語 インドネシア語 マレー語 |
ハイチ語 スワヒリ語 |
カテゴリー3 44週間(1100時間) | |
アイスランド語 フィンランド語 ギリシャ語 ヘブライ語 ロシア語 チェコ語 ポーランド語 ハンガリー語 |
ヒンディー語 モンゴル語 ネパール語 トルコ語 ベトナム語 ラオス語 タイ語 他 |
カテゴリー4 88週間(2200時間) | |
アラビア語 日本語 |
中国語 韓国語 |
出典:“Foreign Language Training” US Department of State
上記の表は米国国務省の「外国語研修(Foreign Language Training)」というページで紹介されているので、興味のある方は確認してみてください。
この表について補足すると、カテゴリー1は最も習得しやすい言語、カテゴリー4は非常に難しい言語になります。もちろん言語習得には個人差がありますが、参加者のスコアを平均して算出しているそうです。約70年間の統計データなので、かなり一般化されている結果だと思います。
習得に必要な時間を、時間・週・月単位で換算してみました。
- カテゴリー1 600~750時間 = 24週間 = 約5~6ヵ月
- カテゴリー2 900時間 = 36週間 = 約8ヵ月
- カテゴリー3 1100時間 = 44週間 = 約10ヵ月
- カテゴリー4 2200時間 = 88週間 = 約1年8ヵ月
このタイムラインによれば、カテゴリー4の言語を1つ習得する時間で、カテゴリー1の言語が3つも習得できてしまいます。例えば、日本語を話すアメリカ人と、フランス語・イタリア語・オランダ語の3か国を話すアメリカ人の勉強時間はほぼ同じということになります。
例1 日本語(88) ≒ フランス語(30)+イタリア語(24)+オランダ語(24)
例2 日本語(88) ≒ ドイツ語(36)+スペイン語(24)+ポルトガル語(24)
言語習得に必要な時間のデータからも、日本語とヨーロッパの言語はかなりかけ離れていると言えますね。
英語ネイティブにとって学びやすい言語
より英語に似た言語(languages more similar to English)のカテゴリー1には、イタリア語、スペイン語、フランス語、ポルトガル語、ルーマニア語、オランダ語、デンマーク語、ノルウェー語、スウェーデン語が分類されています。
どの言語も、①英語と同じ語族もしくは②ロマンス諸語という特徴があります。
英語と同じ語族
西ゲルマン諸語
英語、オランダ語、ドイツ語は、ゲルマン語派(germanic languages)の西ゲルマン諸語(West Germanic languages)に属している言語で、どれもゲルマン祖語(Proto-Germanic)から誕生した姉妹言語です。
ゲルマン祖語が存在していたのは今から約2500年も昔の時代ですが、英語とドイツ語の「語彙の共通度」は現在でも約50~60%で、日常会話に限定すれば約80%は共通していると言われています。
それほどまで似ているドイツ語がカテゴリー1ではなくカテゴリー2に分類されているのは、ドイツ語は英語より文法が多少複雑という理由があるようです。理解のしやすさは語彙の共通性だけでなく、構文や音韻など複合的な要因が絡み合っていますね。
北欧言語
デンマーク語、ノルウェー語、スウェーデン語などの北欧言語(Nordic languages)も、比較的習得しやすい言語なのだそうです。
北欧言語は、言語学的にはゲルマン語派の北ゲルマン語群(North Germanic languages)に属していて、西ゲルマン語群の英語とも親戚関係にあります。スカンディナヴィア地域で話されることから、スカンジナビア諸語、ノルド語などとも呼ばれています。
デンマーク語、ノルウェー語、スウェーデン語は、翻訳しなくてもお互いに意思疎通できるので「相互理解可能性」があるともいわれています。
北ゲルマン語と他のゲルマン語の違いは、西暦200年頃から明確になってきたそうですが、ゲルマン人が使っていた「ルーン文字」が刻まれている碑文は断片的なものが多く、定かな情報ではありません。
ロマンス諸語
ロマンス諸語(Romance languages)とは、俗ラテン語(話し言葉のラテン語)から分離した言語の総称で、イタリア語、スペイン語、フランス語、ポルトガル語、ルーマニア語などが含まれています。
英語が属しているゲルマン語派と、ロマンス諸語が属しているイタリック語派(Italic languages)は、大きく見ればどちらもインド・ヨーロッパ語族(Indo-European languages)に属しているので、遠い親戚とも言えます。
それに加え、ロマンス諸語が他の言語より習得しやすい理由は、英単語の半分がラテン語やフランス語に由来していることが一因です。
英語にラテン語やフランス語の単語が流入した背景はいくつかありますが、1つは1066年のノルマン・コンクエストです。この出来事によって、イングランドがフランス語の方言連続体(アングロ=ノルマン語)を話すノルマン人の支配下に置かれたため、フランス語の単語が大量に流入したからです。
比較的習得しやすい言語
カテゴリー2を見ていきましょう。比較的に習得しやすいカテゴリー2には、ドイツ語、インドネシア語、マレー語、ハイチ語、スワヒリ語が分類されています。
これらの言語が習得しやすい理由は、ラテン文字(アルファベット)が使われていることが一因です。
例えば、インドネシア語は宗主国だったオランダの影響で、マレー語も同じく宗主国だったイギリスの影響で、どちらも表記にはラテン文字が使用されています。更に、どちらもオランダ語由来の外来語が多いことも学びやすい要因になっています。
同じ言語グループだけでなく、同じ文字や単語を使っている言語も習得しやすいという結果になっているようです。
英語ネイティブにとって難しい言語
反対に、英語ネイティブにとって習得が難しい言語は何でしょうか。
非常に難しい言語(Super-hard languages)のカテゴリー4には、日本語、中国語、韓国語、アラビア語が分類されています。どうやら英語話者にとって東欧、アジア、東アジアの言語は習得が難しいようです。
習得が困難な要因には、文字、文法、発音などの言語学的な違いだけでなく、文化的な違い(cultural differences)も含まれているそうです。
生活習慣が違えば使われる単語も違いますよね。例えば、食べ物や食材の違いが分かりやすい例かもしれません。
個人的には、「文字の違い」と「地理的な距離」も大きな要因だと思います。
日本語がとても流暢な南米や東南アジアの知り合いも、日本語を書くのだけは苦手と言っています。特に漢字です。常用漢字だけでも約2000個もありますから、一から覚えるのは大変ですよね。
地理的な要因も大きいと思います。なぜなら、カテゴリー1と2の多くはイギリス近隣の西欧諸国の言語ですが、カテゴリー3は東欧や中東、カテゴリー4は主に東アジアの言語が分類されているからです。
これには理由もあり、近い地域ほど言語接触(language contact)の頻度が増えるので、言語がお互い類似していく場合があるからです。言語学では、この現象を言語の収束(language convergence)と呼んでいます。
ただ、言語接触によって言語が消滅してしまう場合もあるので、必ずしも「言語接触=言語の類似化」という訳ではありません。
日本人が英語が苦手な理由は?
ここまで英語話者にとって簡単な言語と難しい言語を見てきました。
日本人は英語が苦手だと良く言われますが、英語ネイティブのアメリカ人にとっても日本語は難しい言語だったわけです。
そもそも、日本語は他の言語との関連性が明らかになっていない孤立言語(language isolate)とも言われています。最近の言語学では、琉球語と同じ日琉語族(Japonic languages)に分類する研究もありますが、含まれているのは日本列島で話されている言語なので、それ以外の外国語との系統関係は明証されていません。
日本語を学ぶには、英語や中国語などから取り入れた外来語や借用語を除けば、一から勉強しなくてはいけないので、習得に時間がかかるのは当然です。例えば英語とスペイン語の場合は、「会話」を意味する単語は「conversation」と「conversación」でほぼ同じなので簡単です。
ただ注意したいのは、アメリカ外交官養成局による分類はあくまで「英語母語話者の視点」なので、「日本語母語話者の視点」ではありません。「日本語話者にとって英語が難しい」ということを確証するためのデータではありません。
言語の構造が「非対称」のように、言語の学びやすさや理解のしやすさも「非対称」だからです。これは相互理解可能性がある言語でも同じことが言え、「非対称の理解可能性(asymmetric intelligibility)」と呼ばれています。
同様に、この米国外交官養成局のデータを基に「日本人が英語を習得するには2200時間必要」と断定することは出来ません。それでも、ヨーロッパの言語と比べると、日本語が英語とかけ離れた言語であることは確たる事実です。
まとめ
今回は、アメリカ外交官養成局の統計データから、英語母語話者にとって簡単な言語・難しい言語(easiest and hardest languages for native English speakers)についてご紹介しました。
英語母語話者にとって学びやすい言語は、主に英語と同じ語族(ゲルマン語派)とロマンス諸語の言語でした。その理由は、もともと同じ言語だったことに加え、同じ文字・構文・語彙が使われていることが主因です。
一方、英語母語話者にとって難しい言語は、主に東欧、アジア、東アジアの言語でした。その理由は、言語学的な違いだけでく、文化的な違いも大きいようです。個人的には、文字の違いと地理的な距離も大きな要因だと思います。
日本人が英語を苦手なように、英語ネイティブにとっても日本語は難しい言語の1つなので、英語学習は焦らずに頑張りたいですね。