前回「アメリカで話されている言語ランキング」を紹介しましたが、アメリカで2番目に多く話されている言語はスペイン語です。アメリカのスペイン語話者は今後も増加傾向で、2050年には1億人以上になると推測されています。スペイン語の重要性が高まっている一方で、スペイン語がもたらすアメリカの分裂問題にも注目が集まっています。今回は「アメリカのスペイン語話者の現状と今後」についてまとめました。
アメリカのスペイン語母語話者は4100万人!
アメリカで最も話されている言語は英語ですが、その次に多いのがスペイン語です。2017年の米国国勢調査によれば、家庭内でスペイン語を話す人口は約4100万人に及びます。全体の13.4%で、アメリカ人の7人に1人はスペイン語ネイティブという計算になります。
家庭内でスペイン語を話す5歳以上の米国人の割合(2019年)
出典:Ahecht, CC0, via Wikimedia Commons
上の図は「家庭内でスペイン語を話す米国人の割合」を表したものです。緑色になるほど割合が高いことを示しています。緑色(93%)の地域はプエルトリコで、黄緑(29%)の地域はアメリカ南西部やメキシコ国境付近が多いようです。スペイン語を話す家庭の多くは、ラテン系アメリカ人やヒスパニックと呼ばれる人たちです。
アメリカ人の5人に1人はヒスパニック
アメリカでスペイン語を話す人の多くは、ラテンアメリカにルーツを持つヒスパニック系の人たちです。ラティーノやラティーナとも呼ばれています。ヒスパニックの人口は、2000年は約3500万人でしたが、2020年には約6200万人に達しています。
- 2020年 6210万人
- 2015年 5649万人
- 2010年 5074万人
- 2000年 3530万人
出典:“HISPANIC OR LATINO ORIGIN BY RACE” United States Census Bureau
2020年のアメリカの総人口は3.29億人なので、全体の18%、アメリカ人の5人に1人はヒスパニック系という計算になります。ヒスパニックは今後も増加傾向で、2050年にはアメリカ人の3分の1になるとも予想されています。
ヒスパニック系アメリカ人の割合(2020年)
出典:Abbasi786786, CC BY-SA 4.0, via Wikimedia Commons
上の表は「ヒスパニック系アメリカ人の割合」を表したヒートマップです。色が茶色に濃くなるほどヒスパニックの割合が多くなります。先ほど紹介した「スペイン語を話す家庭」とほぼ共通していることがわかります。アメリカ南西部やメキシコ国境付近では80%を越える地域も多いですね。
英語+スペイン語=スパングリッシュ
家庭内でスペイン語を話す約4100万のアメリカ人は、英語を全く話せないという訳ではありません。特に移民の2世や3世は、家庭内と家庭外で上手く言語を切り替えているようです。米国国勢調査によれば、スペイン語母語話者のおよそ70%は英語を上手く話せるそうです。ヒスパニック系が話すスペイン語混じりの英語は「スパングリッシュ」とも呼ばれています。
スパングリッシュの詳細は上の記事でまとめているので割愛しますが、日本人が話すジャパニーズ・イングリッシュのようなものです。母国語が混ざるのはどの言語にも起こることなので、ジャパニーズ・イングリッシュを心配し過ぎる必要はない、ということも言えますね。
言語学習は「○○はダメ」というネガティブ思考ではなく、ポジティブ思考で行いたいですね。
アメリカで最も学習されている外国語はスペイン語
アメリカで最も学習されている外国語はスペイン語です。MLA(米国現代言語協会)が、アメリカの大学で「どの外国語の履修者が最も多いのか」を調査したところ、最も多く履修された言語はスペイン語でした。1970年に当時1位のフランス語を追い抜いてから、現在まで約50年間、スペイン語が1位を取り続けています。アメリカでは毎年約70万人の大学生・院生がスペイン語を履修していますが、履修者数は2位のフランス語とは4倍の差があります。
アメリカは世界一のスペイン語大国に?
現在アメリカは世界で2番目にスペイン語が話されている国です。4000万人以上のスペイン語ネイティブに加え、ヒスパニック系、第二言語話者なども含めると、スペインの約4600万人、コロンビアの約5000万人よりも多くなり、メキシコの約1億2000万人に次ぐ世界2位になります。2050年には、米国のスペイン語話者は1億人以上になるとも推計されています。近い将来、アメリカはメキシコを抜いて世界最大のスペイン語大国になるかもしれません。
文化・音楽・スポーツ・料理など、スペイン語には魅力的な要素が多いことも、話者数増加の一因です。スペイン語のメリットに関しては下記の記事でまとめています。スペイン語は日本人にとって発音がしやすいので、第三言語としてもおすすめです。
プエルトリコのスペイン語話者は90%以上
アメリカの自治領であるプエルトリコでは、英語とスペイン語が公用語に認められています。第一言語としてはスペイン語の方が優勢で、人口の90%以上はスペイン語を話します。プエルトリコは現在アメリカ領ですが、16~19世紀頃まではスペインの領土でした。1898年に米西戦争によって米国領になり、英語が導入されました。ただ、400年間もスペインの統治が続いたこともあり、現在でもスペイン語が広く話されています。統治主体が変わっても、人々が話す言葉は(歴史から抹消されない限り)文化として受け継がれています。
ちなみに、プエルトリコという名前は、スペイン語の「豊かな港(puerto rico)」という言葉に由来しています。先コロンブス期は先住民のタノイ語で「勇敢なる君主の国(Borikén)」と呼ばれていましたが、1493年に到達したコロンブスによって別称で呼ばれるようになりました。アメリカにはプエルトリコのように、スペイン語の地名を引き継いでいる地域が沢山あります。
参考:スペイン語に由来している英単語12選
参考:スペイン語に由来する外来語|地名
参考:スペイン語と英語の似ている単語
スペイン語の拡大がもたらす英語の公用語化問題
アメリカといえば英語のイメージですが、英語はアメリカ合衆国の公用語ではありません。連邦レベルでは公用語は指定されていませんが、州レベルでは約30州が英語を公用語に規定しています。このような英語公用語化の流れは、スペイン語を含む外国語話者の増大が一因だと言われています。1980年代には、英語を唯一の公用語に推進するイングリッシュ・オンリー運動(English-only movement)が始まりました。限定的ではありますが、英語の公用語化を望む声も一部では過熱しています。保守系の世論調査によれば、英語の公用語化に賛成するアメリカ人は70%に及ぶとも言われています。
公用語は多数派の言語を確立するためだけでなく、少数言語を保護するために制定される場合もあります。例えば、南米ボリビアでは公用語に36の先住民言語が指定されています(参照:南米で話されている公用語・言語一覧)。アメリカでは2050年に非ヒスパニック系の白人がマイノリティになるとも推計されています。近い将来、英語の公用語化問題は今より大きな話題になるかもしれません。
「スペイン語話者の増加」と「アメリカの公用語問題」。スペイン語から見えるアメリカの行方にも注目です。
更なる「アメリカの分断」の詳細に関しては、アメリカの政治学者サミュエル・ハンチントンの著作がおすすめです。言語学というより国際政治学の本ですが、1998年に予言した『文明の衝突』はベストセラーにもなりました。移民やヒスパニックに関しては『分断されるアメリカ』も面白いと思います。