以前「英語にはいくつの単語があるか」の記事で、英語にはかなりの数の単語があることを紹介しました。どのように単語を数えるのかは様々ですが、英語辞典「Oxford English Dictionary(第2版)」の見出し語数なら29~60万、最新のIT用語なども含めると100万以上になると言われています。そのほかの言語の辞書と比べてみると、例えばスペイン語で最も規範的な辞書「Diccionario de la Lengua Española」には9万3千の見出し語があるので、スペイン語と比べるとおよそ3~6倍の数になります。
英語の語彙数を100万語とするなら、世界で最も語彙数が多い言語は英語と言えるのかもしれませが、基本的には、言語間の語彙数を比較することは不可能だとされています。
というのも、そもそも「語彙数」を定義するのが困難だからです。例えば、一部の集団でのみ話される隠語・スラング・ネット用語などを単語として含めるべきなのかどうか、一致した見解はありません。了解という言葉だけでも「りょうかい、りょーかい、りょ~、りょ、り」などの略語があります。ほかにも、have, has, had, havingなどの活用形はどのようにカウントすべきかという問題もあります。新語が作られることもあれば、廃語になることもあるので、単語数は常に流動的で変化しています。語彙数を定義するのは一筋縄ではいかないようです。
「言語」に関しても定義は曖昧で、借用語や外来語はどこまでその言語に含めるべきかの問題があります。例えば、エビデンスやコンセンサスなどのカタカナ語は、どこまで日本語にすべきなのでしょうか。これらの定義も曖昧で確定的といえるものはありません。
このようなことから、他の言語の語彙数を比較することは、基本的には不可能とされています。
- どこまでが「単語」か?
⇨ 隠語・スラング・ネット用語・略語・方言・活用形・新語・廃語 etc. - どこまでが「言語」か?
⇨ 借用語・外来語・方言の問題 etc.
実際にどのような英単語が100万語に含まれているのかを確認してみたいと思います。最も有名なのは、アメリカの分析会社グローバル・ランゲージ・モニター(GLM)が、2009年6月10日に100万番目の英単語として追加した「Web 2.0」です。
Web 2.0が英単語と言えるのかについては当時かなりの物議をかもしたようです。単語の定義が「意味のひとまとまり」であるなら、Web 2.0は単語でもあり英単語でもあると言えるでしょう。ちなみに、GLMによると、98分ごとに新しい単語が誕生しているそうです。1日あたり約14.7単語、1年あたり5400単語の計算です。
参照:“Rise and Fall of England as an English Language Word Generator” The Global Language Monitor
英語の造語力は驚異的で、科学技術からエンタメまで、最先端かつ幅広いジャンルで使用されいることが膨大な語彙数を生んでいます。もちろん英語の話者数が多いことも一因です。英語は世界共通語もしくはリンガ・フランカとしてあまねく用いられ、第1言語の約3億7000万人と、第2言語の約10億8000万人を合わせると、世界で最も多い約14億5000万人に話されています。次いで、中国語、ヒンディー語、スペイン語、フランス語と続きます。
参考 英語の歴史を簡単に振り返る
参考 英語はなぜ世界共通語になったのか
英語で開発された新語は日本語やそのほかの言語にも取り入れられています。ITやネット用語などの新しいカタカナ語はほとんど英語に由来しています。それ以外にも英語由来のカタカナ語は日常に溢れていますね。ちなみに、日本語になった外来語は、室町時代はポルトガル語、江戸時代はオランダ語、明治時代以降はドイツ語、フランス語が主流でしたが、近年は半数以上が英語になっています。
日本語の語彙数も豊富だと言われています。2000年に小学館から出版された『日本国語大辞典 第二版』は全13巻からなりますが、50万語が収録されています。方言も含めると60万語にも及び、英語辞典「Oxford English Dictionary(第2版)」の最大見出し語数60万と並びます。日本語にはオノマトペ(擬音語)も多く、このことも語彙の豊富さの一因とも言われています。
まとめです。
100万以上の語彙数があると言われる英語は、世界で最も話者数が多く、最先端かつ広範なジャンルで使用されているため、「最も語彙数が多い言語」と認識されるのは自然な流れと言えます。とはいえ、「言語」や「語彙数」の定義には一致した見解はありません。そのため、言語間の語彙数を比較することは基本的に不可能、だとされています。
どの言語にもそれぞれ特性や良さがあり、人と人と繋ぐ大切な「ツール」でもあれば、自己を形成する「アイデンティティ」でもあります。言語学習は、それぞれの存在を尊重しながら、取り組んでいきたいですね。