外国語を勉強していると、英語と似ている単語をよく見かけます。歴史的に英語は様々な外国語と言語接触を重ね、多彩な語彙を吸収してきたからです。
そこで今回は「英語の語彙に影響を与えた外国語」についてご紹介したいと思います。
英単語の起源になった外国語の割合
まずはじめに、英単語の由来や起源について見ていきたいと思います。
「英単語の起源になった外国語の割合」出典:Wikimedia Commons
上のグラフは「英単語の起源になった外国語の割合」を表しています。この調査によると 、英単語の起源は、ラテン語が29%、フランス語が29%、ゲルマン語が26%、ギリシャ語が6%、その他が10%、という結果になっています。
英単語の由来に関する研究は沢山ありますが、多くの研究では、英単語の半分はラテン語やフランス語に由来するとされています。古英語から引き継がれた本来語(native word)は約20~30%に過ぎません。
念のため、その他のデータも見てみましょう。
以前もご紹介しましたが「別の言語にどのくらい同じ単語が使われているのか」を表す指標のことを、言語学では「語彙の共通度(Lexical Similarity)」と呼んでいます。語彙の共通度を調査しているEthnologueやEZGlotによると、英語とフランス語は語彙の約25~45%が共通しているとされています。
その他にも、1973年に再版された『Shorter Oxford English Dictionary(第三版)』で使われた約8万の英単語の由来を調べたところ、ラテン語やフランス語が50%、ゲルマン語が25%だったという研究もあります。
特に多いのがフランス語に関する研究です。言語学者のAnthony Lacoudreは、4万以上の英単語がフランス語に由来し、フランス語を話す人ならそのまま理解できると推測しています(参照:YouTube)。また、英単語の5万以上、約45%がフランス語に由来するという説明もあります(参照:“Why Study French” Athabasca University)
言語学的には、英語はドイツ語と同じゲルマン語派(Germanic languages)に属する言語です。フランス語はラテン語から派生したイタリック語派(Italic languages)なので、細かく言えば違う語派です。
なぜ違う語派のラテン語やフランス語に由来する単語が多いのでしょうか。外国語別に見ていきたいと思います。
フランス語
英単語の約30%はフランス語に由来すると言われ、特に政治、経済、法律、食べ物、芸術の分野で大きな影響を受けました。
ノルマン・コンクエスト
英語が最も影響を受けた出来事は1066年のノルマン・コンクエスト(Norman Conquest)です。イングランドがノルマン人に征服されたことによって、アングロ=ノルマン語(Anglo-Norman language)が話されるようになったからです。
ノルマン語はNorman Frenchとも呼ばれるように、言語学的にはフランス語の方言連続体に位置付けられています。フランス本土のフランス語とは異なりますが「相互理解可能」だとされています。「イングランドで話されたフランス語」という意味でアングロフレンチ(Anglo-French)とも呼ばれています。
ノルマン語、アングロノルマン語、古フランス語は、15世紀頃まで約300年間に渡りイングランドで大きな影響をもたらし、様々なフランス語由来の単語が英語に取り入れられました。
アングロ=ノルマン語は貴族社会を含めて政治・法律・軍事・貿易などの場で広く話され、これらの分野に関するフランス語の語彙が英語に流入しました。例えば以下のような単語です。
- authority(権利)
- court(裁判所)
- justice(正義)
- mayor(市長)
- minister(大臣)
- money(金銭)
- parliament(議会)
- prince(王子)
- tax(税金)
出典:Etymonline、Wiktionaryなど
これらの英単語はどれも古フランス語やラテン語に由来しています。
ノルマン・コンクエストは、社会と言葉の2極化も引き起こしました。支配層や貴族階級はフランス語を話すノルマン人に取って代わりましたが、一般層や農民階級は英語を話すアングロサクソン人だったので、二層化社会が形成されたからです。
- 仏語:支配層・貴族の言葉
- 英語:一般層・農民の言葉
社会が2層化すると、言葉も2層化します。例えば、beef(牛肉)、pork(豚肉)、mutton(羊肉)はフランス語由来の単語ですが、cow(牛)、pig(豚)、sheep(羊)はゲルマン語に由来する言葉です。
同じような意味の言葉が2つ使われるようになった理由は、「家畜を飼育する層」と「肉を食べる層」が分かれたことに起因します。つまり、英語を話す農民階級は自分たちが飼育する動物を英語で呼び、フランス語を話す上層階級は自分たちが食べる肉をフランス語で呼んだからです。
- フランス語(肉を食べる層)
beef, pork, mutton - ゲルマン語(家畜を飼育する層)
cow, pig, sheep
料理や調理方法の違いも、イングランドとフランスでは違いがありました。例えばboil(茹でる)、fry(揚げる)、roast(焼く)、stew(煮込む)などの料理用語は、この時代にフランス語を経由して英語に伝わりました。
ラテン語やフランス語は行政や法的文書でも使われ、徐々に英語に置き換わっていきますが、18世紀初頭まで使い続けられました。
フランスによる発明品
16~19世紀頃には、フランスの発明者・科学者・化学者によって造られた発明品や新しい概念などが英語にも伝わりました。
フランス語由来の外来語には以下のような単語があります。
- cinema(映画)
- television(テレビ)
- helicopter(ヘリコプター)
- parachute(パラシュート)
- restaurant(レストラン)
- oxygen(酸素)
- hydrogen(水素)
- carbon(炭素)
- thermometer(温度計)
これらの言葉は英語に限った話ではなく、日本語でも外来語として使われていますね。
ラテン語
ラテン語に由来する英単語は約30%といわれ、特に学術、科学、技術に関する用語が取り入れられました。ラテン語が英語に影響を与えた要因を4つに大別して紹介していきます。
ローマ人とゲルマン人
1つ目はローマ人とゲルマン人の接触の影響です。
古代ローマとゲルマン民族の交易や争いは、英語が誕生する以前から行われ、言語接触(language contact)が繰り返し行われてきました。ラテン語を介してゲルマン民族に伝わった単語には、以下のような例があります。
- butter(バター)
- cheese(チーズ)
- cook(料理する)
- dish(皿)
- fork(フォーク)
- noon(正午)
- street(通り)
- wall(壁)
現在でもよく使われるような生活に関する言葉が多いですね。これらの単語はギリシャ語に起源を持つものもありますが、ラテン語を経由してゲルマン語に伝わりました。また、ゲルマン語がイギリスへ持ち込まれ、古英語(450~1150年)の時代になってからも、キリスト教を通じてラテン語の単語が取り入れられました。
イギリス・ルネサンス
2つ目は16~17世紀に起こったイギリス・ルネサンス(English Renaissance)の影響です。
イギリス・ルネサンスよって、約1万以上に及ぶ学術・技術用語が英語に取り入れられたと言われています。例えば、democratic(民主的な)などの政治用語から、imaginary(想像上の)やdexterity(器用さ)などの抽象的な単語まで、創案された語彙は多岐に渡ります。
産業化時代
3つ目は17~19世紀の産業化時代です。
産業革命によって生み出された新しい技術や概念は、既存の言葉では説明することが難しく、新しい言葉の必要性をもたらしました。新しく生まれた言葉は、ラテン語から借用されたのではなく、英語とラテン語を組み合わせて造語されることもありました。例えば以下のような単語です。
- apparatus(装置)
- component(構成要素)
- machinery(機械)
- molecule(分子)
子孫のフランス語
ラテン語の子孫のフランス語の影響も大きな要因です。
フランス語の影響に関しては前述したので割愛しますが、少し前に紹介したbeef、pork、muttonなどのフランス語由来の単語は、帰するところラテン語にたどり着きます。
- 英語:beef (牛肉) ← 古仏語:buef ← ラテン語:bos
- 英語:pork (豚肉) ← 古仏語:porc ← ラテン語:porcus
- 英語:mutton (羊肉) ← 古仏語:mouton ← ラテン語:molto
※語源を更に遡るとギリシャ語にたどり着く場合もあります。
ゲルマン語
英単語の約25%は、英語・ドイツ語・オランダ語の子孫のゲルマン語に由来するとされています。
ドイツ語
ドイツ語と英語は同じ西ゲルマン語群(West Germanic languages)に属する姉妹言語です。現在でも語彙の約50~60%は共通していて、日常生活に限定すれば約80%が同根語(cognate)とも言われています。
ドイツ語からの借用語はhamburger(ハンバーガー)、frankfurter(フランクフルト)などの食べ物から、kindergarten(幼稚園)、autobahn(高速道路)などの近代的な単語まで多岐に渡ります。
オランダ語
オランダ語も英語と同じ西ゲルマン語群に属している言語です。オランダ語からはdam(ダム)、landscape(風景)、cookie(クッキー)などが借用されています。
英語は現在でもドイツ語やオランダ語と語彙を共有していますが、5世紀にゲルマン民族がイギリスへ移住した時から異なる歴史を歩み始めます。また、9~11世紀のバイキングの拡大による古ノルド語の影響や、1066年のノルマン・コンクエストによるノルマン語やフランス語の影響によって、言語としての違いはより明確になりました。
ギリシャ語
ギリシャ語に由来する英単語は約5~6%ですが、英語を含め多くのヨーロッパ言語の語源になっています。
間接的な影響
1つ目は間接的な影響です。
英語とギリシャ語に直接的な言語接触があったかは不明ですが、ラテン語やフランス語を介して間接的に影響を受けています。例えば、下記の単語はフランス語やラテン語を経由して英語に伝わった単語のうち、ギリシャ語に語源を持つ単語です。
- chair(椅子)
- plaza(広場)
- lamp(ランプ)
- olive(オリーブ)
- butter(バター)
造語の影響
2つ目は造語の影響です。
ギリシャ語を使った造語は英語の豊富な語意に多大な影響を与えました。例えば、英語のtelevision(テレビ)はフランス語のtélévisionを経由して英語に伝わりましたが、単語を分解すると、古代ギリシャ語のtele(遠く)とラテン語のvisio(光景)から構成されます。
別の言語の形態素(morpheme)が組み合わさった言葉は、混種語(hybrid word)と呼ばれ、ギリシャ語やラテン語でよく見られます。
ギリシャ語の形態素だけを使うケースもあります。例えば、utopia(ユートピア)はギリシャ語のou(どこにもない)とtopos(場所)を合わせた複合語(compound)です。ほかにも、photography(写真撮影)はphoto(光)と-graphia(描写)を組み合わせて作られています。
古ノルド語
古ノルド語(Old Norse)は、古北欧語とも呼ばれ、ゲルマン語派の北ゲルマン語群(North Germanic languages)に属する言語です。英語とは遠い親戚ですね。
8~11世紀頃のヴァイキングによるイングランド東部と北部の支配によって、古ノルド語の語彙が英語に流入しました。現在でも日常的に使われている語彙が多く含まれています。
- sky(空)
- skin(肌)
- sister(姉妹)
- fellow(仲間)
- bank(銀行)
- birth(誕生)
- gift(贈り物)
- egg(卵)
- knife(ナイフ)
- cake(ケーキ)
- steak(ステーキ)
- get(得る)
- take(取る)
- cast(投げる)
- skip(スキップ)
スペイン語
英語とスペイン語は、イギリスとスペイン、アメリカとメキシコが地理的に近接していることから、歴史的に言語接触が行われてきました。特に、ラテンアメリカの動植物や食べ物などに関する語彙は、コロンブスの新大陸到達以降、スペイン語で世界各地に広まりました。
英語とスペイン語に関しては、別の記事でまとめています。
参考 英語とスペイン語はなぜ似ているか
参考 スペイン語に由来している英単語
参考 スペイン語と英語の似ている単語
参考 スペイン語に由来する外来語|食べ物
アラビア語
アラビア語からは、植物・文化・化学用語などの語彙が取り入れられています。
- alcohol(アルコール)
- alkali(アルカリ)
- coffee(コーヒー)
- cotton(綿)
- lemon(レモン)
- orange(オレンジ)
- sugar(砂糖)
ヒンディー語
ヒンディー語からは、文化・数学に関する用語が、主にインドの植民地時代に借用されました。
- avatar(アバター)
- bandana(バンダナ)
- bungalow(バンガロー)
- curry(カレー)
- pyjamas(パジャマ)
- shampoo(シャンプー)
- verandah(ベランダ)
- jungle(ジャングル)
まとめ
今回は「英語の語彙に影響を与えた外国語」についてご紹介しました。
英語はドイツ語やオランダ語と同じゲルマン語派に属していますが、古英語から引き継がれたネイティブワードは約20~30%に過ぎず、語彙の50%近くはラテン語やフランス語に由来しています。その要因は、ノルマン・コンクエストやイギリス・ルネサンスなど多岐に渡ります。
ラテン語やフランス語に起源を持つ単語も、語源をさかのぼるとギリシャ語に由来することもあります。また、古ノルド語、スペイン語、アラビア語、ヒンディー語などの語彙も取り入れており、英語は実に多彩な様相を呈しています。