アルバイトやコンセントなどの和製外来語は、英語圏では意味が通じないので空似言葉(false friends)と呼ばれています。もしかしたら、外国語が通じない原因は、空似言葉のような意味のすれ違いが一因かもしれません。
そこで今回は、空似言葉の意味や例についてご紹介します。
空似言葉とは
空似言葉とは、異なる言語間において、見た目や発音が似ているのに意味が違う単語のことです。
英語では「false friends」、日本語では「偽の友達」や「空似言葉」などと呼ばれています。
空似言葉が作られる要因には、①外来語が本来の意味とは違う意味で伝わった、②時間の経過によって言葉の意味が変化した、などが考えられます。
例えば、病院で使う診療記録の「カルテ」は、ドイツ語では「カード(Karte)」という意味しかありません。明治時代に誤用として日本で広まり一般的に定着しました。
- ドイツ語のKarte:カード、紙片、はがき、チケット、地図
- 日本語のカルテ:診療記録
日本語はアルファベット表記ではないので、この場合は空似言葉ではなく和製外来語と呼んだ方が適切かもしれません。そのため、次からは英語と外国語を例にして見ていきたいと思います。
英語の空似言葉の例
英語の空似言葉の例として有名なのがlibrary(図書館)です。
英語のlibraryはラテン語に由来する言葉なので、ラテン語から派生したロマンス諸語(イタリア語、スペイン語、フランス語など)でも同じ語源の言葉が使われています。ただ、「図書館」という意味ではなく「本屋」という意味で使われています。
- 英語 library 図書館
- イタリア語 libreria 本屋
- スペイン語 librería 本屋
- フランス語 librairie 本屋
- ポルトガル語 livraria 本屋
ちなみ、に英語で「本屋」はbookshopやbookstoreですね。
libraryやlibreriaの語源を少しだけ振り返ると、どの言語もラテン語のlibrarium(本棚)やliber(本)に由来しています。英語はラテン語の子孫ではありませんが、14世紀頃に古フランス語のlibrairie(本のコレクション)を経由して英語に取り入れられました。
単語が伝わる時にスペルが変化するのはどの言語でも起こることですが、今回は意味も微妙に変化したようです。
多言語を同時に学習する際は、同じ語源を持つ同根語(cognate)から覚えると効率的です。同根語はスペルや意味が似ていることが多いので覚える労力が少なくて済むからです。とりわけ、英語はラテン語やフランス語から約50%の単語を取り入れているため、ゲルマン語派(Germanic languages)の言語だけでなく、ロマンス諸語とも高い語彙の共通度(lexical similarity)があります。
英語が外国語から受けて来た影響については下記の記事でまとめています。
英語は他の言語との共通性が高い反面、このような見た目が似ているのに実は意味が違う空似言葉には、気をつけて学習たいですね。
英語とドイツ語の空似言葉の例
英語とドイツ語は同じゲルマン語派に属しているので、語彙の50~60%、日常会話に限定すれば約80%が共通していると言われています。ですが意味が異なる空似言葉も存在します。
英語 | ドイツ語の空似言葉 |
---|---|
brand(ブランド) | Brand(火) |
chef(料理長) | Chef(ボス) |
college(大学) | Kollege(同僚) |
gift(贈り物) | Gift(毒) |
gymnasium(ジム) | Gymnasium(学校) |
hut(小屋) | Hut(帽子) |
objective(目的) | Objektiv(レンズ) |
stadium(競技場) | Stadium(勉強) |
gift(贈り物)とGift(毒)だけは絶対に混同してはいけない単語ですね。
英語とフランス語の空似言葉の例
英語とフランス語は語彙の約25~40%が共通していると言われています。取り入れた単語が多い分、空似言葉になってしまった単語も存在します。
英語 | フランス語の空似言葉 |
---|---|
actually(実際は) | actuellement(現在は) |
attend(出席する) | attendre(待つ) |
car(車) | car(何故なら) |
chair(椅子) | chair(肉) |
coin(硬貨) | coin(角) |
journey(旅) | journée(日) |
lecture(講義) | lecture(読書) |
location (場所) | location (レンタル) |
pain(痛み) | pain(パン) |
travel(旅) | travail(仕事) |
英語とイタリア語の空似言葉の例
英語とイタリア語の語彙は約30%ほど共通していると言われています。イタリア語の親言語であるラテン語の語彙を、英語が数多く取り入れたためです。
英語 | イタリア語の空似言葉 |
---|---|
argument(議論) | argomento(テーマ) |
camera(カメラ) | camera(部屋) |
confront(直面する) | confrontare(比較する) |
educated(教養のある) | educato(礼儀正しい) |
factory(工場) | fattoria(農場) |
habit(習慣) | abitare(住む) |
library(図書館) | libreria(本屋) |
stamp(切手) | stampa(印刷) |
英語とスペイン語の空似言葉の例
英語とスペイン語の空似言葉は別の記事でまとめています。
海外では通じない日本語の空似言葉
空似言葉は日本語にも起こる現象です。良くある例が、漢語から取り入れた漢字と、外国語から取り入れた和製外来語です。
和製漢字・和製漢語
3~4世紀頃に日本に漢字が伝わって以来、日本語は漢語から数多くの単語を取り入れてきました。「言語接触で何が起こるのか」の記事でも取り上げましたが、『新選国語辞典 第8版(2002年)』に収録されている単語の約半分は漢語に由来していました。
一方、漢字の約30%は現在の中国語とは違う意味で使われていると言われています。これは、日本で作られた和製漢字(国字)や和製漢語の影響も一因です。中国にはなかった文化や物、西洋から伝わった新しい学問や概念を翻訳する必要があったからです。
- 和製漢字の例:峠、畑、働、鱈、鰯、鰤
- 和製漢語の例:文化、文明、時間、科学、経済、自由、思想、意識、現実、主観
いくつかの単語は中国にも逆輸入されているので、和製漢字・和製漢語=空似言葉というわけではありません。中国で使われている社会科学に関する漢語の7割近くは和製漢語とも言われています。
日本語と中国語の空似言葉の例には「新聞」が挙げられます。日本語の「新聞」は中国語では「ニュース」という意味があります。「新しく聞く」と書いて「ニュース」なのは納得ですね。その他にも、「餅」と書いて「クッキー」、「小人」と書いて「器の小さい人」、「愛人」と書いて「夫や妻」など、面白い違いがたくさんあります。
「日本語と中国語で意味が違う漢字」については別の記事でもまとめています。
和製英語・和製外来語
和製英語や和製外来語も空似言葉の一種です。海外では通じない日本独自の和製外来語をいくつかまとめてみました。
アルバイト(arbeit)
arbeitはドイツ語に由来する単語で、ドイツ語では「仕事、労働、任務、職場、作品」などを意味する多義的な言葉です。色々な意味を含む言葉ですが、日本語で使われているような「短時間労働」という意味はありません。英語でもアルバイトとは言わず、part time jobやpart time workと言います。
コンセント(consent)
コンセントは日本語では「電気コードの差込口」のことですが、英語のconsentは「同意、承諾、納得」を指す言葉です。英語で「コンセント」はoutlet(アウトレット)やsocket(ソケット)と言います。
一説によると、ある日本人の電気技師がコンセントのことを「concentric plug」と呼び始めたことから一般的にも使われるようになったそうです。concentricは「同中心の、中心を共有して」と言う意味があります。
クレーム(claim)
クレームは日本語では「苦情」のことですが、英語のclaimは「要求、主張、請求」を指す言葉です。英語で「苦情」はcomplainです。
トランプ(trump)
トランプは英語では「切り札、奥の手」を指す言葉で、カードゲームのトランプのことはplaying cardsと言います。
オートバイ(autobike)
オートバイはアメリカ英語の「自動の自転車」から借用した語と言われています。オートバイのことはmotorcycleやmotorbikeと言います。日本語は英語だけでなく、歴史的にはポルトガル語、オランダ語、フランス語、ドイツ語などからも様々な外来語を借用してきました。
外来語については以下の記事でまとめていますが、和製外来語についてはまた改めてまとめたいと思います。
まとめ
今回は英語や外国語が通じない一因とも考えられる「空似言葉の意味・例」についてご紹介しました。
空似言葉とは、異なる言語間において、形や発音が似ているけど意味が違う単語のことです。
空似言葉が作られる要因には、①外来語が本来の意味とは違う意味で伝わった、②時間の経過によって言葉の意味が変化した、などが考えられます。英語や日本語は現在使われている単語の半分以上を他の言語から借用したため、意味のすれ違いがよく起こります
外国語を勉強する際は気をつけたいですね。